ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ケヴィン・ウィルソン「地球の中心までトンネルを掘る」

 

地球の中心までトンネルを掘る (海外文学セレクション)

地球の中心までトンネルを掘る (海外文学セレクション)

 

 不思議な読後感の残る話が多い短編集。表題作は大学を出て特に何をする気もなくひきこもり的自堕落生活を送っていた男女三人組(孤独でもカップルでもない)が、ある日突然庭に穴を掘りだして、さりとてタイトルのように地球の中心まで行けるわけもなく、精々街中をアリというかモグラだな、のように掘り進んで他所様の地下室をブチ抜いたりしているうちに冬が来てなんとなく止めてしまうようなお話し。他にも祖父母派遣サービス業に就いて家族の「雇われ祖母」になるとか、がらくたじみた(とはいえ決して「がらくた」とは言われない)小間物を蒐集した客入りもない博物館のただ一人の職員兼学芸員であるとか、あとがきにもあるとおり現実にはありそうもない変な職業や行為(さりとて荒唐無稽というほどでもない)を描いた作品が続く。

多くはそれらの変な行動を止めてしまったり、その日常が変化するような内容の作品なので、ルサンチマンが解消される物語だといえば、そうなのではあるのだけれど、それでけで済ますには、現実から一歩(いや半歩程度かなあ)踏み外した感覚が良いです。

 

収録策の中でも特筆すべきは「今は亡き姉ハンドブック:繊細な少年のための手引き」で、これは事典形式の抜粋という形でツンデレというかシスコンというか「姉萌え」について説いたもので、アメリカ社会におけるある種のステレオタイプな「姉キャラ」の在り方を間接的に著わしたものといえようか。おねいさんハァハァという感情は世の東西を問わぬし、むしろ「非実在姉」までもう一歩のところまで来ているような感慨もあり。

 

そしてもうひとつ「ゴー・ファイト・ウィン」は本書収録作品の中でももっとも普通で直球ストレートなティーンエイジ青春ラヴストーリーなのだけれど、主人公が親に言われて嫌々チアガールやってるけれど本当は部屋に閉じこもってクルマのプラモデル作っていたい系女子高生(コミュ障美人)とお隣に住んでるちょっとキチガイ系小学生(思春期放火系)のビョーキィなおねショタ最高かよ!!!!というああアメリカ人も「萌え」はわかってきたんだなあ、でも最近日本じゃあんまり「萌え」って言わなくなったなあとかまあそういう。

 

しかしながら、校内カースト最下層の喪男ふたりが隠れてこそこそクイズサークルやら格ゲー*1やらやってるうちにうっかりゲイカップル化しちゃってドギマギなんて話もあるので現実はそれほど美しくはない、といわれているようでもあり。

*1:タイトルになってるんだがよりにもよって「モータル・コンバット」だったりする