ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ミック・ジャクソン「こうしてイギリスから熊がいなくなりました」

こうしてイギリスから熊がいなくなりました
 

 イギリスには熊がいないそうである。

 

言われてみれば確かに聞いたことがない。ヨーロッパで熊と言えば(イギリスはヨーロッパかという疑念はさておき)どこだろう。ベルリンのシンボル動物は熊だけれども、やはりロシアか。ロシアはヨーロッパかという疑念はさておき。

イギリスから熊がいなくなった顛末を連作的に語り続ける短編集だけれども、別にそれが「実際にイギリスから熊がいなくなった顛末」ではなくて、寓話めいたファンタジーとして紡がれている。寓話めいてはいるけれど、何らかの教訓や道徳的主張が成されているかと言えばそうでもない。

 

ヘンな話だ。

 

挿絵は素朴なタッチで描かれているけれど、題材自体は死んで樹から吊るされている熊だったり、飼育係を絞め殺す熊だったり、下水道からの脱出を願う熊たちの画だったりする。全編は薄暗いトーンに満ちて、そこで記されるのは有史以来虐待を受けてきた何世代もの熊たちの姿だ。

 

史実とは無関係だけれど。

 

熊を題材に何かの隠喩、例えば社会の下層階級や被差別階級にスポットを当てたようなつくり…に、見えないことも無いのだけれど、社会的な話かと言われれば必ずしもそうとも言えないように思う。

 

訳者あとがきも「本当に変な本だ」で書きだされているし、実際その通りなのだけれど、不思議な余韻は残ります。むしろあとがきで解説される「イギリスから熊がいなくなった本当の顛末」と「その後の影響」が普通に面白かった。なるほど王室貴族のキツネ狩りを「伝統だから」と是認すること自体に、反対する人がいる訳だなあ。

 

伝統でもなんでもないので(´・ω・`)