ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

エリザベス・ベア「スチーム・ガール」

 

スチーム・ガール (創元SF文庫)

スチーム・ガール (創元SF文庫)

 

  

スチームパンク百合小説」のような評価をよく聞いていた一冊。実際に読んでみると「お針子」と称して実態は娼婦である主人公のカレン、インド生まれでやはり娼館から逃亡するプリヤをはじめ、登場人物の善玉側は有色人種や性別不一致など多様な社会的弱者が配される一方で、悪玉は全員白人男性という如何にも現代アメリカ読者に向けた現代的なテーマの小説でした。架空の街ラピッド・シティ(地理的にはシアトルあたりらしい)を舞台に、作者の狙いとしては、実際にゴールドラッシュの時代に存在した社会的弱者たちを、オルタネィティブヒストリーの世界で活躍させようというものがあるようです。

 

そういう、多様性を持つ弱者たちが不正義に立ち向かうストーリーなんだけど、街を牛耳る悪党の秘密が電気的に作用して人を自由に操る機械だとわかるや、黒人の副保安官とそのインディアンの助手(ネイティブという用語は使ってなかったはずだ)と共にダイナマイトで爆破しに行くという、まー遠慮が無いというか容赦がないというか、あんまり合法的な闘争はしません(笑)。人によっては好物だろうけど、引っかかる向きは引っかかるかも知れないなあ。

 

トランプが大統領になったころに言われていた、アメリカSF界に蔓延る白人男性至上主義作品への、これがカウンターなのかそれとも本書のようなジェンダーフリー作品へのカウンターとして白人男性至上主義SFが生まれて来たのか、いずれにせよ「いま」を象徴するような一作ではあります。こういう社会性(?)エンターテインメントは翻訳というワンクッションを置いた方が楽しめるんじゃないかな?日本人作家が日本(フィクショナルな日本)を舞台にやると少し生々しさがついて回るのではないかと…。

 

サイバー・パンクがブームだったころにエイミー・トムソンの「ヴァーチャル・ガール」という作品があって(ヴァーチャル・ガール (ハヤカワ文庫SF))、これは近未来のAIとロボットを題材にしながらテーマとしては女性の自立を謳った現代的(同時代的)な作品だったんだけど、この「スチーム・ガール」にも似たような雰囲気を感じます。タイトルも似てるしね(w

 

本作のスチーム度合いを一身に背負う小道具である甲冑型ミシン(実はディーゼル機関で稼働する)は、まあそんなには活躍しないのですけれど、なんでまた裁縫仕事にそんなものをつかわにゃならんのかがまあその、それっぽいことは書いてあるんだけれどねえ。

 

マイノリティを扱いながら、主人公自体はマイノリティ階層の中でもちょっと高い、比較的安定したところにいる(もちろんそれは社会全体から見れば弱く不安定な立場であるが)のは、これはどう捉えるべきなんだろう?