近年名を馳せる事多い戦国武将もといSF作家柴田勝家(本名:綿谷翔太)*1の短編集。民俗学とSFの融合というのはこの人の作品によく掲げられる惹句で、成程そういう作品が多いというか、大体どれもそうか。なにしろ南方熊楠が孫文と組んで19世紀末ロンドンに現れた天使の謎を解く、なんて話もある(「一八九七年:龍道幕の内」)。一方で「邪義の壁」は折口信夫的な民俗学シチュエーションで旧家の(自分の家系の)秘密を解き明かしていく、SFというよりサイコ(キチガイという意味でのサイコだ)ホラーで、こういう物も書くんだなあと初出を確認したらナイトランド・クォータリーだった。こういう物も書くんだなあ。国際リニアコライダーが時間に干渉して個人の過去を改変する…と思わせ実は、な「鏡石異譚」、物語という概念が一国(と個人)の社会を転覆せしめる「検疫官」など様々な作風を読むことができます。
「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」は、実はこれが個人的初柴田勝家だった作品で、S-Fマガジンの2016年12月号(VR/AR特集号)で読んでいます。仮想世界に耽溺する民族をレポートする様で、実は現実と仮想の担保を読者への挑戦のようにまとめた一本。初出以来いくつものアンソロジーに収録された傑作で、今後も読み続けられる一本でしょう。
ところで実は、小説以外でいうと個人的初柴田勝家はそのS-Fマガジン2016年12月号に載っていたアイドルマスターの(デレマスの)VR動画体験レポートの方を先に読んだので、柴田勝家と聞くとどうしてもVRゴーグルとサイリウム装備で架空の舞浜アンフィシアターに降り立ち「Fu!Fuuuuuu!!」「イェェエエ!ヴォイッ!ヴォイッ!」ってやっている人。という印象がある。第一印象って強いなあ。
閑話休題。
そして表題作「アメリカン・ブッダ」ですが、こちらはまるで「雲南省スー族…」を受けた返答のような、VRの側にいる人(人々)が現実からアプローチされるお話。仏教を信じるインディアンアゴン族(阿含だよなー)のミラクルマンよりも、「大洪水」という極めてキリスト教的(旧約聖書的)なディザスターに見舞われてVR世界に逃避した白人社会が、理想的な仮想空間から現実の世界へと回帰する話なんだな、そういう印象を受けます。まさにいま、災厄に覆われた世界の中で描かれた物語だなという気はする。(「検閲官」のテーマも実に今日的であるけれど、こちらは2018年の作品)アメリカ社会というのを白人とインディアン<だけ>で記すのはいささか危険ではあるけれど、やはり対比されるのはVRとRであって、ブッダとかキリストとかはうーんたぶんこれデコレーションなんだろうな…
ズバリいうとゼーガペインのクロシオ先輩みたいな、そういう立場な人がどうやって不便な現実に帰っていくのか。というお話なのだろうなーと。柴田勝家先生もきっとゼーガペイン見てるだろうと思うんだよね。2016年12月号にはゼーガの記事もあったし、舞浜アンフィシアターで嬌声をあげる人ならきっと…