ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ジーン・ウルフ「書架の探偵」

 

書架の探偵 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

書架の探偵 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 

 

もしも不老不死の技術が実用化されたらジーン・ウルフにそれを施すのは人類世界の義務ではなかろうか。御年84歳でまだこんな意欲的な作品を書けるもので、敢えて名前は上げないが没原稿蔵出しみたいな連中とは全然違うぞ。

人類が大幅に数を減らした未来世界の地球で、図書館の書架には本の代わりに作家自身の複製体(リクローン)が納められている、というのが設定の中核です。貸し出し数が少ないと容赦なく焼却処分される無慈悲な世の中で、推理作家E・A・スミス(の複製体)は自らを借り出した女性コレットから生前の自分が書き著した本(本物の書物)に隠された秘密を解き、コレットの父と兄の死亡にまつわる謎を解明してほしいと頼まれ…

なにが驚いたってすごくまっとうにミステリー、探偵小説だったことです。ジーン・ウルフと言ったら「新しい太陽の書」シリーズ(新しい太陽の書 の検索結果 - ひとやすみ読書日記(第二版))をはじめ一筋縄では行かないような作品を様々なテーマで書いているけれど、未来社会で特異な設定とはいえ、こうも直球を投げてくるとは思わなかった。扉を開けると異世界に通じる部屋とか出てくるけど。それとすごく読み易いし、キャラクターにもたいへん感情移入がしやすい。それは本当、ベテランのワザマエです。語り口の妙手もまた良しで、どこまでこの語り手に信頼を置けるのか、そういう部分も面白かった。ものすごくシニカルなユーモアのセンスは相変わらずでお話の悪役たるヴァン・ペトンの末期は声を出して笑った。いやシニカルなユーモアに声を出して笑うヤツのセンスはどうなんだってことはさておき。

続編も構想されているようで全世界の人体生理学者は全力を挙げて不老不死の技術を実用化し、ジーン・ウルフから無限に作品が湧き出るようにしてほしい。