狩野俊介シリーズ以外の太田忠司の小説読むのも久しぶり。狩野俊介シリーズが微妙に現代とは異なる風俗の異世界を舞台にしているのに対し、こちらは完全に現代日本を舞台にした作品。阿南のシリーズとか、ちょっと思い出したりです。
ひきこもりニートユーチューバーで再生数は伸びず全方位に性格も悪いという、およそ読者の感情移入を拒否するような主人公を立てて話を作るのはなかなかできることではないよなあとか思うわけです。共感羞恥で死にそうになるけど(´・ω・`)
例によって作者の地元名古屋が舞台で、喫茶店に入って「大振りのコッペパンに分厚いカツを挟んで三つにカットしたもの」が出てくると、店名書いてなくともコメダだなってわかる。コメダが名古屋以外にも幅広く展開しているいまだから、名古屋以外の読者にもわかるようにこういうテクニックを使うんでしょうね。そういうところはさすがだなあと思う。後々居酒屋も出てくるんだけど、そっちでは特になにかギミック、仕掛けのようなものは感じなかった。
事件そのものは自殺に見せかけた連続密室殺人事件の様相を呈するのだけれど、終わってみれば案外普通の話です。これは主人公が天才名探偵とか不屈のハードボイルドとかではなくごく普通のひきこもりニート青年である、という話の根幹にも寄るんだろうなあ。いじめとかブラック企業とか、扱われる題材もとりたてて特別ではない、ごく普通の物だ。あんまりだな「普通」は。
内面と外面の差、周囲の期待と自身の卑下とのギャップから生じるモヤモヤした感覚のままストーリーは進むんだけど、途中で話に介在してくる女刑事の行動がちょっと不審で、実はこの人が真犯人じゃあるまいか、とは思った。ラストまで読むと不審さの理由もまあわかるものなんだけど、ああいう軟着陸の仕方は、ちょっと唐突かとも思う。それも作者の持ち味なんだろうけどね。
生活力皆無の主人公なもので、老親が離婚と家族の解体を切り出していい加減お前も独り立ちしろ。みたいなことを言い出す方が犯人と一対一で対決するよりよほど脅威だ、というのはなんか面白かった。