ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

光原百合「扉守」

現代日本瀬戸内海に面した架空の街(尾道がモチーフ)「潮ノ道」を舞台に、そこで起きる小さな、少し幻想的な出来事を綴る連作短編集。持副寺の住職了斎なる人物が毎回登場するキャラクターではあるけれど、それはあくまで狂言回し的な人物で、個々の作品は個別のキャラが主人公となる。ごく普通の日常生活を送っていた人間がいわば巻き込まれる形で怪異というか不可思議に遭遇するタイプのファンタジー小説で、出会うのはまあ人外であったり人外っぽいものであったりまあいろいろなわけですが、それらの根源的な「ことわり」には迫らず表層を撫でるような形でそれぞれのお話が進行するので、特に設定的な突き詰めや縛りが無い分「なんでもあり」を気軽に、ライトな感覚で積み上げているような感があり、こういうタイプのファンタジー小説もアリだろうなあと思わせる。この人の作品はむかし「遠い約束」というのを確かに読んだ記憶があるのだけれど、内容は覚えていないなあ…昨年、まだまだこれからという年齢で物故されてしまい、残念です。

魂魄が死出の直前に一晩だけ故郷に帰ってくる井戸を描いた「帰去来の井戸」と、逃げ出した赤ん坊用の靴下を蜘蛛の糸で編んだレースで捕まえる「旅の編み人」がお気に入りです。