ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

カート・ヴォネガット・ジュニア「母なる夜」

母なる夜 (ハヤカワ文庫SF)

母なる夜 (ハヤカワ文庫SF)

白水社Uブックス版asin:4560070563は所蔵していたけれど、ハヤカワSF文庫版は20年ぶり…ぐらいに再読。この作品がSFかどうかと問われれば否だが、いや「人類の創造物はすべてSFです」とも言うしな。

「母なる夜」について何か書こうと思うとやたらに長くて鬱陶しく、無闇に自傷的な文章になりそうなのでそれは避けるが、これまで生きていてこれほど胸を打った小説は無いよ。この一冊があれば他になにもいらないような気がする。

たぶん気のせいです。

わたしはちょっとひるんで、目を閉じた。「シカゴの食肉加工場で、みんなが豚の処理に関してなんと言ってるかご存知ですか」
「知らんな」とワターネン。
「彼らは豚について、悲鳴以外ならなんでも利用できると自慢しています」
「それで?」
「いま、わたしもそんな気分です――」とわたしは言った。「ばらばらに切り裂かれた豚として、あらゆる部分の利用法を見つける専門家に取り囲まれているような気分です。それどころか――悲鳴の利用法まで見つけられたみたいだ!」

だいたいこんな話です。

常々この小説のラストはハッピーエンドだと思ってるのだがあんまり賛同を得られない。しかし今ならはっきり言えるが「母なる夜」のラストというのは…

「いしの勝利」

なんだと思います。*1

*1:「意志の勝利」という映画があるんだけれど、微妙に関係しています