獣たちの夜―BLOOD THE LAST VAMPIRE (角川ホラー文庫)
- 作者: 押井守,寺田克也
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2002/07/10
- メディア: 文庫
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現在TV放送されているアニメ「BLOOD+」の前作にあたる「BLOOD THE LAST VANPIRE」のノベライズ版。当時地味に展開されていたメディアミックスの一環であって、決して「原作」ではないし、おそらく「BLOOD+」とはなんの関わりもないと思われる。*1
押井守の「小説」というのは初めて読んだ。映像作品とちがって個人で(そら勿論編集者は関与するだろうが)やってるモノなので、やりたい放題全開である(笑)舞台が1969年の日本、という点では「――LAST VANPIRE」と共通してるし音無小夜がセーラー服に日本刀で吸血鬼(本シリーズでは「翼手」と呼称される)ところも同じ。しかし主人公は安保闘争花盛りの高校生、「三輪 零」であり、「後藤田 一」なる警察官が重要な位置を占める。どっかで聞いたような連中ばっかりだ*2
冒頭いきなり安保闘争のシーンから始まって延々とデモの在り方や状況、どこか宙に浮いた主人公の独白などが繰り返される。文章は重いが実に読み易く、その点は感心した。そして思うに、押井にとってはセーラー服を着た少女が日本刀ひっさげてバトルなんぞどーでも良かったんであろう、小夜の活躍は余りない。むしろキャラ同士のディスカッションやモノローグ、地の文でひたすら観念的・哲学的な命題が提示され、論議される。それが良い。
場末の食堂でモリモリ飯を食うシーンもちゃんとある。それが「焼き肉」であることは吸血鬼ネタとリンクしているのだけれども。
で、この作品は反体制闘争を行った学生の物語である。「吸血鬼」という人間集団に紛れる異物を狩る、というストーリーからてっきり「総括」とかそちらの話になるかと思ったのが(特に武闘派の少数グループ学生が次々に殺害されるという流れはそれを予感させた)、そうではなかった。学生運動をテーマにするとしばしばスポットが当てられる「転向」ネタかと思ったがそうでもない。ちなみに自分は転向ネタが大嫌いである。「当時彼は転向したか否か」に関わらず世の中誰だって転んで向きを変えるものだ。ではなにか。
なにもできなかった。
と、そういう話だった。
この作品は角川ホラー文庫に採録されている。その点ではおそらくホラーに分類すべきなのだろうけれど、やっぱり自分としては「学園ファンタジー」だと、そう思いたい。どんな年齢、世代に関わらず、大抵の人間は「学園」をくぐり抜けて生きている。だからこそどんな年齢、世代に於いても共感あるいは共鳴できる価値・概念はそこにあり、自分としては本作に共振できる事は十分にあった。