ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

木村哲人「増補新版 テロ爆弾の系譜」

テロ爆弾の系譜―バクダン製造者の告白

テロ爆弾の系譜―バクダン製造者の告白

まさかこの本が復刻されてるとは思わなかったんですごくおどろいた。惜しむらくは装丁がなにやらお笑いバラエティー番組を思わせる雰囲気になってしまったことで、初版はもっと殺伐としていた*1


とりあえず章題を列挙してみると、

第1章 爆弾教本
第2章 バクダンの歴史
第3章 爆裂弾の発明
第4章 加波山決起
第5章 アンパンと爆裂弾
第5章 テロ爆弾の系譜
第7章 軍事委員会
第8章 筑波山中の公開実験
第9章 テロ爆弾研究室
第10章 監視と死
第11章 パリのテロ爆弾


まあ、実に扇情的な文言が踊っていて、今にも盗んだバイクで走り出しそうな気分にはなる(笑)一応副題にもある通りかつて爆弾を作った経験のある著者が、自らの体験及び主に日本国内でテロリズム目的で使用されたいくつかの爆弾の研究・および作成によって得られた知識をつづるノンフィクション。もっとも、あんまり面白いんで「ひょっとしたらこれはウソなんではないだろうか」と思わなくもない。が、事実は小説より奇なり、ということでひとつ。

話の軸は二つある。戦後の混乱期、昭和26年にひょんなことから「球根栽培法」の実物*2を目にした、当時まだ十代の若者だった著者がが一瞥するなりその内容の稚拙さを見抜き、自分だったらもっとマシなものを作れるはずだ、とのめり込んでいく過程が一つ。それに付随して19世紀のロシア革命で<人民の意志党>が用いた着発式の爆裂弾や明治時代に自由党員が作った爆裂弾を文献の研究など*3から再現実験してみる「系譜」がひとつ。後者の過程ではいわゆる「大逆事件」で作られた爆裂弾はどう転んでもただの玩具花火程度のシロモノだ、という事実が明らかになったりする。

面白いのはやはり前者のほうで、著者は時代の流れか日本共産党の地区軍事委員会*4に招かれ、より実行能力のある爆弾を作れると明言しホントに作れてしまった結果、中央軍事委員会所属の武器研究員*5となり、親切な党員の庇護の元、筑波山中の廃屋に籠もって手投弾や時限爆弾、地雷等々の開発をせっせと始めるのであった。

読んでいるとまあ、面白いものである。爆弾に重要なのは爆薬よりもむしろ信管であって、これがしっかり出来ていないと爆発するものもしないし、せんでええ時に暴発したりする。化学薬品だけでなく、除草剤や砂糖までも爆薬の材料にはなる、云々。小説作品等で手作り爆弾を登場させたい向きには非常におすすめ。

しかし、家内制手工業のテロリズムでは世間を転覆させることなど出来はしない。近年オウム真理教テロリズムサリンを用いたことは今更書き記すことでもないが、それで政府が打倒された訳でもない*6、政治的にはまったく無力だ。同時に彼の組織は自動小銃密造計画を進めていたそうだが一体弾薬をどう配備するつもりだったのか理解に苦しむ。およそ日本のテロリズムには、このように実効性が欠落している。素人じみた行動様式だけでその後の展望もなにもない*7、それが例えば「使い物にならぬ玩具で占められていた」球根栽培法であり、湧いて出てきたどこの馬の骨ともわからぬ小僧を重用する体質だったりするのかもしれない。

当時まだ二十歳前の著者には恐ろしく先見の明があったようで、小規模秘密主義で手作り爆弾をこしらえてもなんら実効性などはない、むしろ合法的な手段で大量生産すべきだと主張する。爆薬も雷管も、調達する術はある。

「しかし手投弾や地雷の弾体を、鋳物工場にどうやって作らせる?一見して手投弾とわかる形のモノをさ」
「それは手榴弾だ、といって陸軍の九七式手榴弾の弾体を作らせるのですよ」
「ええッ」
とさすがの山崎も目を丸くした。
「戦友会というものがあるでしょう。旧軍人の部隊ごとの親睦会が。あの会から手榴弾型のライターを記念品に注文を受けた、といって名前彫りは別の工場でやるといえばいいじゃありませんか」
(中略)
わたしの怪気焔に、山崎の目が光ったようにみえた。
「君は恐ろしい人だね」

この山崎なる人物が非常に面倒見のよい人で、話はできるし資金は調達してくる、青春の悩みも聞いてくれるしまるで父親のような人物であり、

おまけに公安のスパイだった。*8

「球根栽培法」は何故わざわざ失敗するようなテロリズムを奨励していたのか、なぜ実行能力のある爆弾技術者が「秘密研究所」に隔離されたのか、武装闘争なるものは一体なんだったのか・・・戦後史の断面、或る深い闇が、そこに。

いろいろ書いてはあるが、別にこの本を読んでも爆弾が作れる訳ではない。その点誤解無きように。陸軍中野学校に興味がある人にはオススメです。そういうノリです。

もし、本当に爆弾を作りたいと思っている人は・・・
以下URLをクリックしてください。自分に言えるのはそれだけで、あとは自己責任だ。

http://www.ron.gr.jp/law/law/bakuhatu.htm

*1:純白のカバーに鮮血が飛び散る、シンプルなもの

*2:近年はコミケでも売られていたそうだが

*3:著者の家系にはある数奇な事情によって爆裂弾の製造法が伝承されていたりする

*4:むかしはそんなものがあったそうである。なかったのかもしれないが

*5:むかしはそんなものがあったそうである。なかったのかもしれないが

*6:それでも被害は起きたし、被害者の方々には同情を禁じ得ない

*7:現在のイラクアフガニスタンでもほぼ同様だと思われる

*8:らしい。著者の推測