ミステリーのタグつけたけれど、別にこれはミステリー小説ではなくて、普通小説です。訳者あとがきにもそう書いてある。
どこが普通の小説だよ(´・ω・`)
すいません嘘つきましたいま。普通どころか相当イカレた作品ですこれ。
「ウェストレイクの未訳作品のなかに、なんかすごくヘンなのがあるらしい」「それも普通小説」「しかもメタフィクション」「第一章が何度もくりかえされてなかなか第二章にたどりつかない」「めまいを覚えるほどの傑作」「著者に殺意を覚えるほどの駄作」「日本で読んだことあるのはミステリ評論家の小鷹信光と木村二郎だけ」「マスト中のマスト」「なんか知らんけど、とにかく究極」「嘘じゃないんだ!」などと。
あとがきによるとミステリマニアの間ではそんな噂が飛び交っていたらしい。そんな話を迂闊に信じていると、そんな話を迂闊に信じるような人間になってしまうぞ(´・ω・`) なお「嘘じゃないんだ!」というのはウェストレイクのノンシリーズ作品で訳も出てます。あとがきにまで楽屋オチを振るな(´・ω・`)
とまあ、かなり変な話ではある。ウェストレイクという人は多作で芸達者であることよなあと筆の冴えを楽しむことは、これはもう存分に楽しめる。ストーリーは破滅的で壊滅的なんだけどさあ。主人公のエドはポルノ小説のゴーストライターをやってて、これがまた壊滅的なスランプに陥っていて、何とかして新作を書こうとするのだけれどまったくストーリーは展開せず、途中から愚痴になったり自らの半生を懐古しだしたり偽の性交記録を記述し始めたりで、結局第二章には繋がらずまた新しい第一章を始める。本書のノンブルは上下二か所に在って、下は通常のページナンバリングだけれど、上の部分は今まさに書かれているポルノ小説の第一章冒頭から25ページが何度も繰り返されるという構造で、これDTPやった人大変だったろうなあ…
どこまでが小説の内容でどこからが作者であるエドの実生活なのか、話は次第に拗れて捻じれてメタフィクションの相互作用みたいな混沌とした小説空間が構成されるものです。やあ変な話だ。著者ウェストレイクの死後10年を経てようやく訳された、これは確かに傑作にして駄作です。嘘じゃないんだ!
それよりなによりこういう異色の作品を翻訳出版してくれる国書刊行会バンザイという話でもある。創立50周年おめでとうございます(´・ω・`)ノ