国書刊行会ジャック・ヴァンストレジャリー最終巻。今回は表題になっている長編「スペース・オペラ」+中短編4本という構成。その「スペース・オペラ」も長編とはいえ様々な星をめぐる連作のような形ではありますな。
ジャンルとしてのスペースオペラがどんなSFを指すのかというのはまあ、今更ここで書くことも無いのかもしれないけれど、本来安物SF活劇であった存在が、いつのまにか壮大で高尚な作品を差すようになったのは、ひとつは日本における「オペラ」の位置づけの西欧との違いで、もうひとつは多分ジョン・ウイリアムズによるスター・ウォーズの映画音楽がゴージャスすぎたからではあるまいか。そういうハイローの差があり過ぎるスペースオペラ業界に殴り込みをかける渾身の一作…ではあるのかも知れない。ジャック・ヴァンスの「スペース・オペラ」がどんな作品かと言えば宇宙でオペラを上演しに出かける話です。
「出オチ」ってこういうことだろうなあ。メインキャラがほぼ全員胡散臭いかボンクラか胡散臭くてボンクラという一行が、「異郷作家」ヴァンスお得意のヘンテコリンな文明を持つ様々な惑星を巡ってだいたいヒドイ目に合う流れで、ちょっとスケールの大きな21エモンという感じです。いまひとつ消化不良な感じではあるけれど、石黒正数のカバー画に描かれたヒロインのマドック・ロズウィンは本編よりカワイイ(笑)
その他の収録作では「悪魔のいる惑星」が良かった。思うに、19世紀には地球上で可能だった「未開の文明」と接触する物語が、その実態が明らかになるにつれ(差別問題等で)やりにくくなっていった20世紀で、舞台をSFという場所に変えれば、それがまだ可能ではあったということなんだろうなー。
翻って21世紀の今では、ここまで牧歌的な宇宙観のSFは、やはりやりづらかろうと、そこを何とかするのも作者の腕前なのかも知れませんが。