ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

トム・ロブ・スミス「エージェント6」(上)(下)

エージェント6(シックス)〈上〉 (新潮文庫)

エージェント6(シックス)〈上〉 (新潮文庫)

エージェント6(シックス)〈下〉 (新潮文庫)

エージェント6(シックス)〈下〉 (新潮文庫)

旧ソ連の捜査官レオ・デミドフのシリーズ第三作にして完結編。今回はいつになく扱われている年代・地域が幅広く、1950年のモスクワ、1965年のニューヨーク、1980年のアフガニスタンとそして…と物語は流れる。第三作を読んでようやく気がついたんだけどこのシリーズ、ひとりの男の人生を描きながら「ソ連」といういち国家の興隆を語っていたんだな。今巻で決着がついてすなわちブレジネフ体制以降は語る必要無しってことなのかも知れない(w

話の舞台が広がる一方で「謎」そのものは全三作中最も小さな解決をみる。いかに小さくともレオにとってはあまりに重いその事件の推移には、どこかアメリカ人と「ケネディ暗殺」に通じるものがあるような…そんな感慨。

下巻のアフガニスタンで出てきてその後の人生変転過ぎるアフガニスタン国家情報局訓練生のナラ・ミール嬢のキャラクターが素敵(*´∀`)

そんでもってあらためて思う。以前アメリカがテロとの戦い云々言い出した頃に知人から「アメリカだってテロリストと変わらないじゃん!」と、理屈としては稚拙ながら感情的にはよくわかることを言われてさ、たしかそのときは「テロリストとはそもそも国家に依らずに外交主権を持たない軍事集団でほんたらかんたら」的な返事をしたような気がするんだけど…

今なら言える。どんな政治思想であれ国家体制の根本にあるのは恐怖によって人を動かすテロリズムだ。たとえどれほど平和で穏健な社会が運営されていようとも、それが壊され失われることへの「恐怖」は容易に人々を動かす事が出来る。より良い未来はより悪い未来を「恐怖する」ことによって生まれる。


浜の真砂は尽きるとも 世にテロルの種は尽きまじ