
- 作者: スティーヴンキング,Stephen King,永井淳
- 出版社/メーカー: 集英社
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「最近の若い奴に吸血鬼について尋ねても『呪われた町』も知らねえ」みたいな話を聞いて、いやー俺は昔読んだから知っているぞ内容は、内容は…
すっかり忘れています(・ω・)
そんなことがあったんで読み返してみる。キングは10代の頃やたらと読んで、たしか「IT」を読んだらお腹一杯になっちゃんたんだよな。真クリとかたまたまアンソロジーに入っていたような短編作品を除けば、久しぶりかも知れません。
いやー、良くできてますね傑作です。キングがこの作品で描いたこと、いったい何をやったのかについてはもうあらゆる角度から語られているとは思いますが、ベトナム戦争直後の70年代の雰囲気とか衰退する地方コミュニティとか、通俗的なアメリカ社会にえらく古典的な吸血鬼を降り立たせ…と、今更乍らに本作で描かれる伝統的な吸血鬼像に驚かされます。吸血鬼バーローとカトリック教会のキャラハン神父との対決シーン、十字架や信仰を媒体として顕現する「奇蹟的な」超常現象のような場面は、いまはもう古くて書けないかも知れないなあ。映画も原作もちゃんと見てないんだけれど時代的には「エクソシスト」とほぼ同時期で、様々な価値観が揺らいでた時代のアメリカで宗教信仰と怪奇現象を対決するものとして描く意味は大きいのだろうなあ。イマドキのアメリカ社会でヴァンパイア小説が占める地位はもっと別のものに変化して、拡散と浸透を続けているらしいのですけれど。
中盤からのスピーディな展開はこの先の80年代に華開いたモダンホラー、ディーン・R・クーンツに代表される「ジェットコースター的な」小説の先鞭をつけるものでありましょう。強いて言えば「呪われた町」という邦題がどこまで適切に本書内容を現しているかがちょっと疑問ではあり(映像化作品に付された「死霊伝説」なんて噴飯もののタイトルよりはよっぽどマシだけれど)、ジェルーサレムズ・ロット通称セイラムズロットは呪われ「た」町なのではなく、ひとつの町が呪われていく過程や消滅する様相を、吸血鬼に託して描いているんでしょうねえこれ。「これからこの街は消滅するッ!」と言って消滅しなかった街もありますけれど、あれは描いてるマンガ家本人が吸血鬼な作品で(w
読んでるこちらがずいぶん歳くったものでありますから、むかしは読み飛ばしていたいくつかの事象に気付かされます*1。台詞でさらっと語られている「悪党仲間の一人が医師ナンバーのついた車を盗む」映画はドートマンダーシリーズの、たぶんロバート・レッドフォード主演の「ホット・ロック」のことじゃないだろうか。そして――
彼女はいつも意識的に、あるいは無意識のうちに、恐怖というものを一つの単純な方程式にあてはめていた。恐怖=未知という方程式である。この方程式を解くために、人は問題を単純な代数用語に還元する。かくて未知=床板の軋む音、床板の軋む音=恐るるに足らない、という答えが出る。現代の世界では、あらゆる恐怖がこの方程式を使うことによって骨抜きにされてしまう。もちろんある種の恐怖は正当化されるが(中略)中には合理的な説明のつかない、黙示的な、ほとんど体の自由がきかなくなるような種類の恐怖もあるということを、彼女はいまのいままで信じていなかった。この方程式は解答不能だった。
いまならはっきりと解る。ここにあるのは極めて適切に継承され、上質に醸成された「ラヴクラフトの遺産」だ。