- 作者: カート,Jr.ヴォネガット,カート・ヴォネガット・ジュニア,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1989/12
- メディア: 文庫
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チャンピオンたちの朝食 (1984年) (海外SFノヴェルズ)
- 作者: カート・ヴォネガット・ジュニア,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1984/05
- メディア: ?
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文庫版では書影がないのでハードカバーも挙げておく(イラストは共通)。カート・ヴォネガット・ジュニアの最高傑作、待望の復刊である。紀伊國屋書店の復刻フェアだとかで並んでいたので他の書店では見つからないかも知れない*1。ちなみに作品自体はSFでもなんでもない。
とはいえ、ヴォネガットをSF作家として、その作品をSFとして取り上げていなければ本作に巡り会うことは無かったかあるいはもっと遅れていただろう。10代の頃貪るようにSFを読んでたときに出会い、疑いようもなく自分の人格形成に影響を与えた一冊である。ピース。
内容についてはどう説明して良いのか実はよく解らない。あらすじに関しては冒頭で簡潔にまとめられているので引用してみよう。
これは、臨終の近いある惑星で起きた、ふたりの痩せて孤独な、かなり年とった白人の出会いの物語である。
そのひとりはSF作家で、キルゴア・トラウトという。彼は当時まったく無名で、自分の人生はおしまいだと思っていた。それはまちがいだった。この出会いがもとで、彼は史上もっとも敬愛された人間のひとりになる。
トラウトが出会う相手は、自動車の販売業者である。ポンティアックのディーラーで、名前をドウェイン・フーヴァーという。ドウェイン・フーヴァーは、発狂の一歩手前にあった。
作家どころか「自称作家」に近いキルゴア・トラウトは億万長者でキ印のエリオット・ローズウォーター*2によりミッドランド・シティで催されるアートフェスティバルに招待される。何かの嫌がらせかと思ったトラウトはイベントを台無しにすべく当地を目指すのだが、ミッドランド・シティでもべらぼうに羽振りの良いドウェイン・フーヴァーは化学物質のせいで発狂寸前であった。たまたまナイトクラブでトラウトに出会ったフーヴァーは彼の著作を読み、三文SFを創造主の託宣と勘違いして周囲の人間に暴行を振るい、大混乱に陥れる。その他色々。
大体そんな話。これだけ見ても意味が解らないと思う。なにしろ自分でもよくワカラン。
あえて書影を掲げたのは著者自筆のイラストを見て欲しいが為である。一目瞭然の事と思うがこれは電気椅子で
あーその、電気椅子なんだこれ。ヘタウマどころか本当にヘタクソなのだがやはりこのイラスト抜きでは語れない。全編ヘタクソな挿絵だらけで電気椅子だけでなく牛とか羊とかトラックとか化学物質とかビーバーとかビーバーとかパンツとか墓碑とか涙とか。
全部で24章からなるが各センテンスはさらに断片的である。これはヴォネガット作品の特徴のひとつ。文中に本人の意見が記述されたり作中に本人が登場したりする。これも特徴で最後の作品「タイムクエイクasin:4150114331」になると最早どこまでが小説でどこまでがエッセイなのだかさっぱりわからない。ただし、小説であれエッセイであれ、それが作者の意見であり意志の発露であることに変わりはない。だからまあこのヘタクソなイラストも、断片的な文章も、意見であり意志の発露なのだ。
→短編そのもののほうは、「踊るあほう」という題がついていた。トラウトの多くの小説とおなじく、コミュニケーションの悲劇的な失敗をテーマにしたものだ。
プロットはこうである。空飛ぶ円盤に乗ったゾグという生物が、どうすれば戦争を防げるか、どうすればガンが治るかを説明するために、地球にやってくる。彼はこの情報をマーゴという惑星からたずさえてきた。そこの住民はおならとタップダンスで会話するのだ。
ゾグは夜中にコネティカット州内に着陸する。着陸したとたん、近くの家が燃えているのを知る。彼はその家の中に掛けこみ、おならとタップダンスで、家の人たちに恐ろしい危険のことを知らせようとする。家の主人は、ゴルフのクラブでゾグの脳天をぶんなぐる。
作中作として紹介されるキルゴア・トラウトの短編。なんという馬鹿馬鹿しさ、なんという悲劇。しかし、翻って、ぼくたちわたしたちはどうなんですかね。
絵でも写真でもいいから何か一枚用意しよう。自分の作ったお気に入りでも良いし有名な作品でも良い、とにかく価値があるものだ。それをビリビリに千切り、出来るだけこまかい断片にする。すると明らかになることだが個々の断片は無価値でつまらなく、なんら意味を成すものではない。ではそれをもう一度ジグソーパズルのように組み上げていくと…
元に戻るわけがない。さっぱり取り返しが付かないのである。残念でした!また来週!!
「チャンピオンたちの朝食」ってだいたいそんな話です。おもしろいよ。
もっとも、いくら世の中が吹き溜まりや掃きだめのように思えるからと言って、それを容認するのはいかがなものかとも考える。なぜなら、本当にそうだとわかってしまった時に、少しばかり困るからだ。
*1:ハヤカワオンラインでは注文可能
*2:「ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを」の主人公。http://d.hatena.ne.jp/abogard/20060901