ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

E.F.ベンスン他「怪奇礼讃」

怪奇礼讃 (創元推理文庫)

怪奇礼讃 (創元推理文庫)

ここ最近出た創元のSF・ホラー小説のアンソロジーは大体把握しているものだと勝手に思っていたが、そんなことは全然ないと気がつかされた2004年刊行の一冊。いや浅薄を恥じ入るばかりであります。こんなに面白い本に、これまで気がつかずにいたとはどれほどの無知蒙昧か!表紙画が21世紀に出た本とは思えないほど古めかしいとゆーのはさておき。

英国の古風な怪奇小説を編纂した一冊ではあるが、古風とはいえ決して古臭いというわけではなく、むしろこれまで見たことがないような類の怪奇幻想恐怖の作品が22編も、しかもこれ文庫本でまだ創元の値段付けが底上げされる前のものなのでわずか860円(税別)で手に入れられる!大変にリーズナブルで、大変に贅沢な楽しみなのです…

本書を編纂するという作業を通して、今一度怪奇小説とは何かということを考えてみた。怖い話でなければならないだろうか。しかし血飛沫が噴き出し内臓が飛び出す血腥い話や身体的苦痛による恐怖を描く話は苦手である。暖炉のそばで読むのが相応しいような古風な趣が漂い、読み終えた後にじわじわと怖さが心に染みてくるような短編が好きだ。怪奇とは、すなわち恐怖ではないはずだ。怪奇とは、不思議で怪しいということなのだ。(略)もっと不思議な話、変な話、謎めいた話、そしてなおかつ怖い話を読みたい、そう思って選んだものが、本書に収録された

「まえがき」より。その言葉を裏切らすに不思議な話、変な話、謎めいた話、そしてなおかつ怖い話が満載である。普段まずやらないことだが一日2〜3話ずつ、時間をかけてゆっくりと、ときにはもう一度読み返したりもしながら皿の隅々まで嘗め尽くすように味わい、楽しみながら読み進めた。ホジスンやブラックウッド、ダンセイニなどよく知った名もあるが多くは自分の知らない作家であり、未だ知られざる世界の中に、手探りで分け入って知見を得る。ああ、それだけで幸せ。

パブのカウンターで数人の男たちが声を潜めてささやくたった6ページと半分の小品が、えもいわれぬ恐怖(の感覚)を後に残していくヒュー・マクダーミットの「よそ者」が最高にお気に入りだがその他にもメアリ・エリザベス・ブラッドン「昔馴染みの島」やエイミアス・ノースコート「オリヴァー・カーマイクル氏」などがもうたまらない。前者は幽霊、後者は(おそらくは)魔女を扱った怪奇小説だがどちらも非常に爽やかな読後感を味わえるああなんだろうな、ともかく、面白いのだ。

「THE STEP AND OTHER STORIES」と英題が付されていて、そのベンスンの「STEP」は、これは「跫音」と云う題で翻訳されているのだが、これは、これは平均的日本人なら90%は知っているであろう種類のラストで――

どこから影響されたのかはよくわかる。それを知った上で楽しめるのはたぶん日本の読者の特権だろう。もし貴方が英国を旅行して、どこかのアイリッシュ・パブで牡蠣フライが出てきたら、これはもともと日本の料理なんですよ。と微笑ましげに思えるように。

あまりこういう言い方は好きではないけれど、通好みのする良い書物だと思う。そしてここまで絶讃してきてなんだけれど、ちょっと他人に教えるのが勿体ない(苦笑)