ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

平井呈一「世界怪奇実話集 屍衣の花嫁」

 

 実話と銘打ってるものをホラー小説にカテゴリするのもどうかなあとは思うけれど、100年以上前の外国の怪奇譚と来れば実話も創作もさほど違いはありますまい。元々は昭和34(1959)年に東京創元社から刊行された「世界恐怖小説全集」全12巻の最終巻として編纂され(配本自体は第10回だったそうだ)、その後60年間復刊されなかったいわば幻の一冊……。

 

なのだけれど、その、なんだな…

 

ひと言でいって地味です(´・ω・`)*1

 

全体は3部構成に分かれて「I」では「ハリファックス卿怪談集」など、イギリスで刊行された幽霊譚の実録を収録している。これがまた幽霊屋敷の噂のある館で物音がしたの人影を見たのといういわば「報告」が淡々と綴られるようで読んでてあんまりテンションが上がらない。

「II」はエリオット・オドンネルを中心に小説仕立ての作品が続いて、ボリューム的にはこのパートがいちばん大きい。とはいえやはり「実話である」という前提に立った作品ではあるので、怪異や怪奇現象についてもそれほど派手なものではない。表題作になってる「屍衣の花嫁」も、幽霊屋敷の噂がある館に住んだら本当に幽霊が出てきて「出て行け」というので慌てて逃げた。みたいなお話だ。19世紀の人間の怪奇現象に対する姿勢や見え方、想像力の創造性というのも現代の人間とは違うのでしょうね。しかし謎の歌い手と再三遭遇する話を謎めいた語り手から聞かされる「呪われたルドルフ」は技巧を凝らしていて面白かった。その反面作為が強くてあまり実話っぽくはないのだけれど。

「III」は1948年にアメリカで行われた心霊学会での講演が掲載されている。これはちょうど100年前、1848年に起きた「ベル・ウイッチ事件」というポルターガイストや人格憑依現象を伴う魔女の事件の、実際を解明するテーマで、魔女とされたのが十代女子なのであるからして、まあそうなるよなというヒステリーと家庭内暴力に回収される。

 

だいたいそんなところでしょうか。東雅夫が巻末解説で「英米怪奇小説の仄暗き原風景」と称しているのは言い得て妙で、なるほど欧米怪談の地盤にあるのはこういったゴースト・ストーリ―なんだろうなあと思わされる一方で、やはりそこから根を広げ幹を伸ばし葉を広げてこその物語であろうなあとも思う。やや自分には合わないように感じたけれど、刺さる人にはきっと刺さるでしょうし、実際貴重な内容であると思います。

*1:個人の感想です