ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ディヴィッド・L・ロビンズ「鼠たちの戦争」(上)(下)

鼠たちの戦争〈上〉 (新潮文庫)

鼠たちの戦争〈上〉 (新潮文庫)

鼠たちの戦争〈下〉 (新潮文庫)

鼠たちの戦争〈下〉 (新潮文庫)

まず不明を詫びなければならない。昔から存在を知りながらこの作品を忌避して読まずにいたのはジュード・ロウ主演の映画「スターリングラード」の原作だと認識していたからで、実際に読んでみると映画とまるで違うので驚いた。そして読み終えて解ったのだが「鼠たちの戦争」は特に映画「スターリングラード」の原作という訳ではなかった。どこで間違えたんだ。

「クルスク大戦車戦」の感想*1にもその旨記してしまったので、訂正せねばなりませんねー。

実際<あの>映画と扱ってる題材はまったく同じで、スターリングラードを舞台として、ソビエト軍の狙撃手ワシーリイ・ザイツェフと彼を倒すためにドイツ本国から派遣されてきた狙撃兵教官との戦いを主軸に描いた戦争小説。ドイツ軍スナイパーの名前こそ本作ではトルヴァルト大佐、映画ではケーニヒ少佐と異なっているが、ザイツェフと恋に落ちる女性兵士ターニャ、政治委員ダニロフ、狙撃兵仲間のクリコフと同じ名前のキャラクターが相当出てきて、まるで違う人物造型なのでかなり面食らって読み進めたのも確かだ。特にヒロインのターニャはお優しいレジスタンス兵士どころかザイツェフ麾下の狙撃兵部隊の優秀なスナイパーでもとはミンスク出身の殺る気満々のパルチザンでおまけに実はアメリカ人だとか凄くぶっ飛んでます。だがそこが良い。

繰り返しになるが<あの>映画とはまったく関係ないお話なので、ダニロフがターニャに横恋慕する展開になったりしないし、ザイツェフとターニャは最前線でイチャイチャするにはするがひとつひとつの行為はもっと重い。もし自分と同様<あの>映画が苦手でこの小説避けてる人がいたらそれは誤解です。しかしこうも同じ人名が出てくるのは当たっている資料が同じなんだろうけれど、実際のところ旧ソ連時代の「史実」ってどこまで当てになるんだろう?結局ドイツ側にはスターリングラードに狙撃兵教官を送り込んだ記録って無いんだよな、確か?*2

<あの>映画ではケーニヒ少佐との対決がクライマックスだったけれど本作ではトルヴァルト大佐は
わりとあっさり
死んでしまってその後も話が続く。ナンダソレハ と思ったけれども最後まで読み終えて気がついた。そう、この小説のタイトルは「狙撃兵たちの戦争」などではない。あくまで主役は「鼠」たちなのだ…

*1:http://d.hatena.ne.jp/abogard/20051229

*2:しかしこのエピソードフィクションではよく採り上げられていて、ジェイムズ・セイヤー「地上50m/mの迎撃」asin:4102155112ではヴィクトル・トゥルソフとエルヴィン・ケーニヒ少佐の両名で登場する