ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

小関隆「徴兵制と良心的兵役拒否」

「レクチャー 第一次世界大戦を考える」シリーズ。第一次大戦は日本では研究されることの少ないテーマだが国際社会の動向におけるインパクトは第二次大戦よりも遙かに大きいものなので、このような叢書が刊行されているのは喜ばしいことだと思います。いわゆるブックレットよりは厚めで選書よりは薄い、150頁強の読みやすいボリューム。本書内容はそれまで伝統的に志願兵制に頼ってきたイギリス*1が初めて「総力戦」に直面し徴兵制度を施行した時期にあってそれに異を唱えた「良心的兵役拒否者」と彼らの運動、政府軍部の対応をまとめたもの。あくまで20世紀初頭の歴史的事象を解説するものであり(その後の社会に大なり小なり影響を与えているとはいえ)、現代日本の有様とは直接的に関係することではないと申し上げておいた方がいいのかな。どうも「徴兵制」ってワードは右も左もヘンなひとたちのアンテナに引っかかり過ぎる気がするので(笑)


国際連盟軍縮会議よりも前の時代の話なので、世界平和の礎をどこに求めるべきなのか、わかりやすいターゲットが未だ存在しない時期だということは頭に入れておいた方が良いんだろうな。そこで軍事を拒否し平和を希求する基礎となるのは「人間性」への希望と理想主義化で、そこで語られる絶対平和主義自体はまあ、なんだな「美しいもの」です。

自分の原則のために死ぬ覚悟は出来ています。私はすべてのイングランド人の良心のために立ち上がっているのです。良心的拒否は証拠によって証明することはできません。唯一の証明方法は、良心的拒否のために苦難を被る、必要であれば死ぬ覚悟をすることです。国のために生命を犠牲にする覚悟のできている人々が何千何万といる一方、もっと高次の原則のために犠牲を払う用意のある者がいなかったら、情けないことでしょう。


この発言自体はメソディスト(英国国内では非主流派のキリスト教宗派)の理念に基づく個人の主張だれども、戦時下のイギリスでは宗教的心情は労働運動や社会主義と結びついて「反徴兵制フェローシップ(NCF)」なる団体が組織され、様々に活動しました。それに対して政府では軍部内での非戦闘部門への配属や国内での労働奉仕を割り振ったりそれも拒否する層には刑罰を処したりの対応いろいろです。


まあ、そんなところか。民主主義に基づく政府と社会は「平等」や「公平」の概念を基底として苦役や厳罰を求め、自由と権利を掲げる兵役拒否者は「理想」や「理念」に邁進して容易に尊大且つ独善的になり、と。戦争が終わってみれば兵役拒否者が何を生んだかと言えば特に戦争を止められたわけでもなく、なにがしか勝利に貢献したわけでもなく。ここで起きた挫折とそれでも残り続けた理想は「次の機会」に多いに影響してくるわけですがそれはまた別の話。


自分は何らかの理想を信じられるほどには理想主義的ではないのだけれど、他人の掲げる理想や理想主義は尊重したい。とはいえ「ならぬものはならぬ」では話し合いにならないんだよなあやっぱりさ。


てなことを思った。現代日本の有様とは直接関連しないんですけどね。


島国のイギリスではなく敵国と地続きだったフランスの状況はどうだったんでしょうね?「フランスではマークされていた反戦活動家はひとり残らずいなくなってしまったのである(志願して兵隊になってしまった)」って話があったな…

*1:近代に於いても軍制の主流が海軍であったことが影響している