ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

菊地秀行「妖神グルメ」

妖神グルメ (The Cthulhu Mythos Files2)

妖神グルメ (The Cthulhu Mythos Files2)

嘗て朝日ソノラマ、緑背時代のソノラマ文庫から刊行されていた作品が創土社からノベルスの新装版で復活。いや懐かしいものですね。自分がいわゆる「クトゥルフ神話」に接したかなり初期に読んだものであー、読んだのは中学生の頃になるのかな?少なくともこれを勧めてきたのは中学の時の同級生だったはずである。なんとも星辰の彼方な思い出だな(笑)

おそらく日本人作家の手によるクトゥルフ作品を読んだのは本作が初の体験だったろうなあ。いまでもちょっとだけ「槍烏賊の頭部に竜の四肢」って形容にトキメクのはこの時の刷り込みによるものでしょう。まだ「ミスター味っ子」も世に出ていない当時にあって、ここまで奇天烈な食い物ネタをブチ込んできた菊地秀行御大の業にあらためて感嘆の思いを抱きます。バカバカしいほど(褒めてますよ?)のギャグ小説な味付け、飾り立てに見えても、その実根幹に流れるエッセンスはラヴクラフトとそのサークル諸作品のそれを存分に使った王道な恐怖小説か。主人公内原富手夫(ないばらふてお)がニャルラトテップのもじりだと初読当時は流石に気がつかなかったけれど、「外なる神々の使者」が世界各地を訪れて旧支配者とその眷属にタダメシを食わせて回るお話なんだよこれ。

今回再読してアーカムハウス出版社がちらりと登場してるのにも気付かされる。オマージュ的な意味合いを捧げる相手としてはダーレスのほうが強かったりもするのでしょうか、スピーディな展開のまま様々な土地、様々なオブジェクトや怪物が跳梁跋扈する様は「クトゥルフ神話」全般に対するチュートリアルのようでもあり。

登場人物が魅力的なのは流石の業で、ウィスコンシンで出てくる名も無きヨグ・ソトト信者の魔術師がトボけた味でいい感じです。すぐ死んじゃうんだけどね(笑)ヒロインが勝ち気で強いのも菊地作品でよく見られる特色か。何見ても動じず普通に将来の人生設計とか考えてるヒロインの江梨子はニャルラトテップと幼なじみってなんかすげェな…

四半世紀以上も前の作品なので、いささか古めかしいところはあります。まだまだソ連が頑張ってたころの話だもんねー。最新鋭の原子力空母カールビンソンの艦載機がF-14とA-7で実に時代を感じる。そのカールビンソンとダゴンが激突するシーンはいまでも色あせないダイナミズムに溢れていて、実に濃厚な一冊だなあ。
「随伴艦はどうした」とか、そゆツッコミはええですから。

過日この本を手に出来たことは自分にとって後々まで随分影響したと思う。当時本書を勧めてくれたT君と、今回の復刊を遂げた創土社と、そして勿論菊地秀行御大にふんぐるいでいぐるなうな感謝を。

ところで実はこの本「ソノラマ文庫NEXT」のレーベルでも一度復刊されている。その時はそもそも気がつかなかったのかな?その後ブックオフなどで背表紙をよく見ることはあっても実際に手に取ったことはなくて、

(このときのカバー・イラストは、アホそのものだった。いま思い出しても腹が立つ)


などとあとがきに書かれていたら、そりゃ調べたくもなるものです。


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ああ…、こりゃ何も考えてない絵ですね…一時期のソノラマって装丁酷かったもんな……