クラーク・アシュトン・スミスの幻想小説は最近だと創元から大瀧啓祐訳で3冊刊行されているけれど(「ヒュペルボレオス極北神怪譚」だけ感想書いてたhttp://abogard.hatenadiary.jp/entry/20111212/p1)、こちらは1974年に創土社から出ていたものを「ナイトランド叢書」で2分冊化したものの上巻分。大瀧訳で言うところのゾティーク編は未読だったので、おそらく初見の物が多いと思われる…が、なにしろ文体も用語も全然違うので、ひょっとしたらどこかで読んでいるのかも知れない(笑)
復刊にあたって訳文には手を入れているそうだけれど、やっぱり古さは感じます。実際古い作品だけどね。「ヒュペルボレオス―」のときにも思ったけれど、C.A.スミスという人を「まずクトゥルフ神話ありき」で認識してしまうと若干誤解というか誤読というか、齟齬を生むのだろうなあと。解題にもある通りもう少し別のタイプの作品を作った、もう少し詩作的な作家なのでしょうね。
解題に記されたスミスの生涯とか、作品リストなどの書誌的な価値は非常に高いと思います。長編を一度書こうとして失敗したというのはなにか親しみを感じたりもする。
収録作品それぞれは概ね救いもなく終わる話が多いのだけれど、ゾンビとなって恋人と添い遂げる「死霊術師の島」や、人は最後は文字となるという主題が秀逸な(なにしろ人は最後に文字になるからなあ、概ねの文明世界では)「最後の文字」、品行方正な若者がロリ淫獣王女に拐かされかかる「ウルアの魔術」など、このテーマで今の作家が書いたらどういう作品が生まれるだろうな、とは思った。
ああ、大瀧訳でも読んでみたいですねこのへんをね。