- 作者: ウィリアム・ホープホジスン,William Hope Hodgson,荒俣宏
- 出版社/メーカー: 原書房
- 発売日: 2002/05
- メディア: 単行本
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「幽霊狩人カーナッキの事件簿」*1などの短編怪奇小説で知られるホジスンの、一大長編作品。前に読んだ長編「異次元を覗く家」がイマイチだったのと怪奇作家には短編が良くても長編がダメな人がいる*2のとでいささか躊躇する気分もあり、図書館で見かけてもしばらく手を出さずにおいたもの。ちなみに創元推理文庫版「夜の声」*3に収録されている萩原香「ホジスンの生涯」によると本作は
太陽が死に絶え、地上では恐ろしい怪獣が跋扈し、生き残った人類は巨大な金属製のピラミッドに潜み棲む終末期の地球を舞台に、至純なラヴ・ロマンスが展開されるこの幻想科学ロマン
だそうである。で、読んだ感想はといえばですね
リア充ばくはつしろ(´・ω・`)
に、尽きるんだなこれが(笑)だってさー、本文記述の8割方は荒野でカップルがキャッキャウフフしてる話なんですぜ?やれくちづけしたのくちづけを交わしたのくちづけたのとキミたちダイソンの掃除機かよってぐらいにずーっとちゅーちゅー吸い合ってるの。一人称でひたすら読者に向けて語りかけるタイプの文体でそれを延々と続けられるもんですからヘキエキしますわな。おまけに17〜18世紀ぐらいの古典文学を意識したとかでやたらと冗漫に構えた上に(ここ大事ですよ)キスの他は外套にくるまって添い寝する以外にナニもしないのよ!清純派かよ!!あまつさえ愛の素晴らしさを延々と説きだし読者に向かって
そう思うと、わたしはいつのまにか、まだ最愛の女(ひと)に巡り会っていない人びとに対して、かぎりない、しかし奇妙な、同情を感じていった。そういう男たちは、あらゆるものを<最愛の女>の前に差しだして、これはわたしがあなたのために護ってきたもののすべてですといい添えるような、そんなふしぎに神聖な栄光ある愛を、まだ味わっていないことから、<最愛の女>のためを思ってあらゆるものを護ることをしてはおらず、また<最愛の女>に手わたして、ああわたくしのことを忘れずにいてくださったのねとこころなごませることになる、そんなせっかくの宝物も、不用意に扱っているに違いなかった。
( 中 略 )
だから、余計なことは考えずに<最愛の女>がやがてあらわれると信じてほしい。だから、読者は、いま自分にできることすべてに愛をそそいで生きてほしい。そうすれば、ある日<最愛の女>と巡り会うことができ、わたしが述べたように人間らしい喜びと美しさのこもった声で語ることができる。そうして読者は、あの辛い苦痛を忘れるのだ。しかし、くれぐれもいうけれども、実際に<最愛の女>があらわれるまでは、この点に注意を向けているべきではない。だからわたしも、無益な内心の理由づけは、この辺でやめることにする。
ブッ殺すぞこの野郎 (#^ω^)ビキビキ
まー全編こんな調子なんで、ストーリーの起伏とか末期の地球の設定だとかは正直どうでも宜しくなる。ある種の慇懃無礼さとか傍若無人の振る舞いは、どこかカーナッキに通じるところもあるかなあ…
発表当時「読むに堪えぬ冗長なロマンス」と評されたのも判る気がするし無理に短縮した版が出されたのも無理はない。この荒俣宏による邦訳はアーカムハウスの版を底本にしながらも「後半の冗長さを考え(略)テキストのカットを断行した」んだそうである。まだあったのかノロケパート。ふつーに考えるとつまんなそうだけど、なんかぐるっと一回りしていろいろ面白い、ヘンな小説である…
第一次大戦に参加して塹壕線の向こうに「真のナイトランド」を見たホジスンがそこで何を感じ何を書こうと思ったのか、それを知ることが出来ないのはかえすがえすも残念なことですね。幻想小説より砲弾のほうがその…強い。*4
*1:http://d.hatena.ne.jp/abogard/20080326
*2:誰とは言いませんが、ブライアン・ラムレイのことです
*3:http://d.hatena.ne.jp/abogard/20100328
*4:ところでホジスン戦死の状況が「ナイトランド」と「夜の声」の巻末解説で大幅に食い違ってるのは何故なんだぜ