ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

乾石智子「紐結びの魔導師」

kindle版しかリンクが出てこないのはなんの陰謀だ。ともかく「オーリエラントの魔導師たち」*1の中でもとりわけ面白かった「紐結びの魔導師」リクエンシスを主人公にした連作短編集。冒頭の1本こそ再録だけれど5本は書き下ろしで解説は池澤春菜嬢でお値段は760円(税別)とくりゃその場で買いでしょう!とはいえ「遺産」「子孫」の2つはブリッジ的な小品なんだけれども。
作品の毛色は全然違うのだけれど「ファファード&グレイ・マウザー」のシリーズに接したときのような楽しさが確かにあって、それは何だろうなと考えていたら解説のなかで引用されていた著者の言に

ファンタジィには空気感が必要だなと思うのですよ。

とあってああなるほどこれなんだなと思わされる。空気というのを普段我々は全然認識せずに生きているけれど、空気の中に不純物が混ざれば「不自然な空気」には必ず気づく。舞台がどれほど現実とは隔たっていても、物語りにどれほど著者の恣意的な設定が盛られていても、それを不自然とは感じさせない文章・文体、大事なのはたぶんそういうことなんでしょうね。

このシリーズまだ全部を読んでいないので、もう少し手を出してみようと思う。

リクエンシスが350歳以上も長命になるとは思わなかったけれど、最後は本を作り幸せになりに行く。よい結びでした。