ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

大森望・編「NOVA 2021年夏号」

NOVA 2021年夏号 (河出文庫)

NOVA 2021年夏号 (河出文庫)

  • 発売日: 2021/04/03
  • メディア: 文庫
 

 

大森望編集による書き下ろしSFアンソロジー、NOVAも長いなーと思いつつ実際に読むのは初めて。これまで「年刊日本SF傑作選」でNOVA初出というのはいくつか読んでいるけれど、なんでか本巻にまでは手が届かなかった。なんでだろうな?英会話教室みたいな名前だからかな(そんな馬鹿な)

そんなNOVAになぜ手を出したかと言えば池澤春菜嬢初の小説が掲載されているから…なのだけれど、実は以前に別名義で書いてたのを知らずに読んでしかも長年書棚に在り続けていたというのは本当でした。道理で文フリで売り子などされていたわけですなうむうむ。

その池澤春菜嬢初小説は堺三保監督作品映画「オービタル・クリスマス」のノベライゼーションという結構な変化球で、短編映画のノベライズというのもなかなか掲載する場が見つけ辛いものではありましょうね。さきにWEBで先行公開された際にも読んでいるのだけれど、未見の映画の小説化作品というのは判断に困るところがある(笑) 映画では少女だった(らしい)密航者が小説では少年になっているので、何か他にも違いはあるのだろうか?しかしムスリムの宇宙ステーション職員が初対面の子供の幸運と幸福を願ってクリスマスを祝うという結構攻めたシチュエーションにしては、当該人物の言動がどうしても日本人のように見えてしまうというのは、そこは難しいところなんでしょうね。と、言うだけなら楽だな。しかし作家池澤春菜の今後の活躍を大いに願いたいところではあります。メルティランサーのノベライズとか(無理)

 

その他の収録作品では坂永雄一「無脊椎動物の想像力と創造性について」がダントツに良かった。ちょっと「地球の長い午後」を思わせるような蜘蛛SF。酉島伝法「お務め」はいつもの酉島伝法らしさが全然無いおかげで実に読みやすかった。○○○と○○○○という*1、題材的にはありがちなものなのだけれど、ラストの静謐感が良い。ちょっと「アウトサイダー」ぽくもあるのだなー、ラヴクラフトのね。柞刈湯葉「ルナティック・オン・ザ・ヒル」は滑稽で残酷な月面上の戦闘を風刺的に描いてこれも良かったなあ。

 

全体を通じて「なるほどなあ」と思わされたものだけれど、なにが「なるほどなあ」なのかはヒミツだ。なんだよ(´・ω・`)

 

でもこれほんとは2020年夏号なんだよな。去年AERA池澤春菜・夏樹対談で「夏に出るアンソロジーに一本書いている」みたいなことを言ってたものな。

 

 

*1:最近ではマンガでも扱われて有名なネタ