ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

梶尾真治「サラマンダー殲滅」

いま入手できるのは徳間文庫版なのですね。10代の頃に読んで大変面白かったものを、常々再読したなーと思って漸く。図書館の書庫から借り出した朝日ソノラマのハードカバーによると初版刊行1990年で、かれこれ30年以上経っていたのか…

すごく勢いのある作品で、文庫でも結構な厚みの上下巻、ハードカバーだと2段組みで525ページのボリュームをまったく感じさせない。ある種王道なストーリーも(それがどこか陳腐でクラシカルな匂いをさせるところも)強く印象に残っている。当時まだSF作家クラブの会員によってのみ投票されていた第12回日本SF大賞を受賞していて、成程作家であればこういう「書きたいけれどなかなか書けないような話」を評価するものなんだろうなと、思ったものです。

いま読んでも全然古さを感じない、むしろイマドキの方が多くの読者に感銘を与えることができるかもしれない。ライトノベルが10代の読者だけのものでは無くなってずいぶん経つけれど、このライトノベル前夜の時代に刊行された「テロ組織によって夫と子供を失った平凡な主婦が、自らのアイデンティティを喪失しながらもすべてを復讐に捧げる話」というのは、現代の20代、30代の読者にも十分受け入れられるものだと信じる。女性主人公のアクション作品でクライマックスはロボ戦というのも、ずいぶん時代を先取りしてたんだろうなあと思うことしきりで。

マトリョーシカ」という外部機構を次々にパージして段々と小型になるロボットはいわば「逆ゴーディアン」みたいなメカなのだけれど、それが恒星の輻射熱に至近距離で晒される超高温惑星のトワイライトゾーン(要するに太陽系の水星をもっと地獄めいた環境にしたようなもんです)で戦闘する為…という設定だけではなく、主人公神鷹静香が目的を遂げるために何もかも無くしていくというストーリーやテーマに沿った、極めて物語上の要求に応じたロボットだったのだなと、これは再読して漸く気が付きました。なかなか無いよねそういうものもね。

復讐を遂げるために代償として記憶を無くしていく、それはちょっと「テッカマンブレード」に似ている。無論順番は逆でテッカマンブレードがサラマンダー殲滅に似ているのだけれど、30年経ってサラマンダー殲滅を再読して気が付いた。目的を遂げるために何もかも無くしていく苛烈さ持つ作品を、俺はもうひとつ知っているぞ。

 

それは

 

 

ゼーガペイン」です。

 

またかよ!と思われるだろうが特にゼーガペインADPの情報爆弾とかいやむしろ記憶を無くして自我が崩壊しながらもなお人類の為に戦う既婚女性というのはこりゃ間違いなく

 

ゼーガだ。

 

本編で2機出てくるマトリョーシカも、静香が乗り込むマトリョーシカαのほうは2人乗りの複座機だしで実にゼーガでありますよいやマジで。マジでマジで。

静香とペアを組む夏目郁楠という男性キャラクターが、これが登場直後は微妙に嫌なヤツなんだけど(笑)、だんだんと心を変えて行き着いた先に発する言葉が

 

すごくいいのよ。

 

台詞自体は実にありきたりで、陳腐でクラシカルでもある。いまここでそれを抜き出してかくかくしかじかです。と書いてもなんら感銘など受けないと思うのだけれど、長大なボリュームと苛烈なストーリーの終着点に置かれると*1、非常に効果的で、この台詞を読ませんがためにそれまでの積み重ねがあったんだろうなと、初読時にも30年経った今でも同じことを考える。こういう話って書きたくてもなかなか書けるものではないでしょう。

 

自分の気持ちに正直に生きていけばいい。約束で誰かのものになるなどということは、人間にはない。本当に好きな人を探せばいい

 

それでアレね、30年も経つと初読時とは違う感慨を抱くこともあってさ、脇に配されたヨブ・貞永とラーミカ・由井のコンビ、冴えないオッサンの治安官と超能力美少女のコンビにすごく共感する。

 

というかオッサンに共感する(´・ω・`)

 

物語のメインストリームとは別に、随所にいわば挿入される様々なキャラの在り様が悲しかったり切なかったりちょっと笑ってしまったりで、そのあたりはアクションもコメディもラブストーリーもなんでも書けるカジシンの面目躍如といったところでありましょう。何年か前に「黄泉がえり」でブレイクしてからこっち「泣ける作家」だって評判ばかりが先に立つけど、それだけじゃあないんだぜ。

 

且つてNHK-FMでラジオドラマ化されたそうだが残念ながら未聴取で、思いのほかビジュアル映えする内容でもあるのだから、いまからでも遅くないからどこかでアニメにしてくれまいか。無理か…

 

こんだけ長文書いてて、作中結構重要な事象である「空間溶蝕」についてひと言も触れないのはどういうことだよと思いつつ(´・ω・`)

*1:厳密にはエピローグがあるので最後の台詞ではないのだけれど