ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

鈴埜「精霊樹の落とし子と飾り紐」

組み紐で魔法という仕掛けに惹かれた異世界転生(転生ではない)ファンタジー。著者の鈴埜さん(またしても僭越ながら)はたしか「森SNS」でお会いしたのではなかったかと思う。初の書籍化、おめでとうございます。

「転生ではない」と書いたのは、「ブラック企業で超過労働していたら残業帰りにトラックに轢かれて死にました」的な生まれ変わりではなく、帰宅途中のOLが気がついたら異世界に居た。という、概念的には転生ではなく「転移」に属するタイプだからなんだけど、あんまり細かいところには拘泥せずに「異世界もの」でもいいのかなあとも思う(なお著者あとがきでは明確に異世界転移小説であると書かれています)。

世界の移動が驚きはあれど乱暴ではないし、主人公が元々憤懣を溜めこんでいるキャラでも無しで、異世界転生ものにままあるルサンチマン大爆発みたいな話ではないので、そこは非常に安心して読めました。異世界に落とし子(ドゥーモ)として現れたヒロインのシーナには組み紐(トゥトゥガ)を通じて精霊魔法を組み上げる資質が顕現するのだけれど、その魔力は稀代の精霊使いであるフェナの力量を通して振るわれるもので、シーナ自身が万能無双するわけではない。大体において優しい世界、緩やかな物語です。これは舞台設定の方で異世界転移者の受け入れに慣れている世界、転移者を敬う文化が形成されている社会だという枠組みを最初に作っているからでもあるのでしょう。やはりブームというのはあるもので、作者にとっても読者にとっても、こういうものは作品の外で洗練されていくのでしょう。

世界樹に護られた異世界で出会った精霊使いフェナの庇護を受けつつ、地味に組み紐職人の見習いとなって手に職を付ける流れ、そこで実用本意ではなく「可愛らしさ」を目的化した製品開発といわゆるパテント取得などああこれコージーファンタジーなんだなと。元々はミステリーの分野で生まれた「コージー」概念の物語には、女性主人公がお店をもつなど自活する様が散見されますが、近年では国内外の異世界ファンタジー小説にも見受けられるものですね。

ところで「シーナ自身が万能無双しない」とは書きましたが、実はします(笑)食べ物の分野で。服飾のみならず食事においても実用本位な世界で、日本の味を再現するべく奮闘する様にはだいぶページが割かれて、なんか全般的に「丁寧な暮らし」を読んでる感は強い。食べ物を丁寧に記述すると読者受けが良いというのは、これも国内外問わず異世界ファンタジー共通のものかと。

優しい世界、ではあるけれどそれはシーナが安全なポジションにいられるからであって、一歩ベールの外に踏み出すとそこにはやはり近代以前の暴力的な世界が広がっていることは読者にも提示され、この先の展開を期待させます。異世界からの落とし子は長命になるという設定、既に50年前にこの地に降りている日本からの転移者マナは今後どう関わるのか、続きも楽しみ。

巻末には番外編が2本あり、この世界の一般人の視線で日常生活の在り様が語られます。そういう細やかさも◎

そして自分がこの作品で一番気に入っているのは、実は文体、語り口だったりする。視点の取り方の変化やモノローグへの移行が実に自然に移り変わって行って、オートマ車みたいなんですね(解り難い例えだ)。意識してやっているのか自然に出来ているのか、それも不思議。