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ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

平田真夫「水の中、光の底」

水の中、光の底

水の中、光の底

言葉にするのが難しいような種類の感想を抱く、とてもよい幻想小説。幻想的、幻視的と言ってしまえば簡単なのだけれどもそれでは何にも説明できないよなあ。「日常のSF幻想」とカバー織り込みには記されているけれど、日常のSF幻想って一体なに?

全10編からなる短編集で「ロイドメガネの主人」と彼の経営する小さなバーを主軸に据えた連作短編…の、ようだけれども個々の作品で登場するそのお店は決して同一ではないし、舞台となる街や世界そのものさえ作品ごとに違うような、あまり設定の縛りやストーリーなどを考えず、短いながらも時には濃密に、時には儚げに記述される風景そのものを味わえばよいか。海の上を行く路面電車、地下に広がる海、トンネルを掘って辿り着く虚無の世界、などなど。

夜の公園で初老の大学教授と「小豆洗い」が哲学的な問答を楽しむ「公園――都市のせせらぎ」がいちばんお気に入りかな?この異色な作品集の中でもとりわけ異色な存在かと、思わされるのですが。

小説作品としてはこれがメジャーデビューとなるのだけれど、前にもふれたようにゲームブック展覧会の絵」をはじめ書き手としては長年様々に携わってきた人だそうなので、研鑽を積んだベテランによる小品を豊かに味わう、そんな読書体験でした。

※詳しい成立過程がこちらのインタビューに載っていました。「展覧会の絵」も含めてなかなか興味深い内容。

http://www.webmysteries.jp/sf/hirataokawada1109-1.html