20世紀SF〈5〉1980年代―冬のマーケット (河出文庫)
- 作者: 中村融,山岸真
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2001/07
- メディア: 文庫
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ジェフ・ライマンの「征たれざる国」を読みたくてさがしていたもの。大昔にSFマガジンに掲載されたとき(なに特集の号でしたっけねえ)に既読の作品だけれど、久しぶりに読み返してやっぱりいろいろ「ねじまき少女」との類似を感じるカンボジアらしき国を舞台にしたグロテスクなうーんなんだろう、ガジェットとしてはバイオテクノロジカルなブツがいろいろ出てきますけれど、このいささか長めの短編小説が書きたいことはガジェットではないよね。小国の戦乱と貧困を描いた悲しい話、やるせない物語ではありますが、読み応えのある内容です。
一般的に、なのかなあ。SF小説を分類するときにガジェットやモチーフが用いられるのはたしかに容易いことだけれど、SFが(意図的に嫌な言い方をすると、よいSFが)描いているのはもっと別のことで、ガジェットやモチーフというのはその為の手段や道具に過ぎない訳です。「80年代はサイバーパンクSFの時代だ」などとよく言われ、本書にもギブスン、スターリング両名によるサイバーパンクな作品は収録されているけれど、二人が作中で使っているガジェットやモチーフは、やっぱり小道具の域を出ない。大事なのはそういうモノや場所を利用して「ひとがなにをするか」なのだろうけれど、後に続き真似をしようと思ったら、小道具から始めるのがてっとり早かったと、そういうことなのかな。
本書収録作品はむしろサイバーパンクではないSF小説が主で、むしろ90年代や21世紀を迎えてからムーヴメントとなったガジェットやモチーフ(何回使ってるんだこのフレーズ)を使用した、先駆的な存在が多いように感じます。当時はSF的概念であったものが10年20年経つとより身近なところには在ったりするのか、いやいまだって十分SF的概念だろうとは思いますけれど。
グレッグ・ベア「姉妹たち」がね、デザインベイビー全盛の世界で両親のポリシーによってナチュラルに産み落とされた少女の懊悩と救済を、遺伝子改良技術の陥穽と絡めて描いているのだけれど、思春期の少女の持つ悩み(うひゃー)を、SFってこんな形で書くことが出来るんだなーとあらためて感じ入りましたよ。オースン・スコット・カードの「肥育園」はクローン技術を用いて「アンパンマンの古い顔はその後どうなるのか」を描いて秀逸って違いますがな(笑)
全般実に面白い作品ばかりでした。やはり80年代は落ち着くなあ。