ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ハーラン・エリスン「ヒトラーの描いた薔薇」

 

 

「死の鳥」に続く近年になってようやく編まれたハーラン・エリスンの日本オリジナル短編集第3弾。今回ストレートに「アメリカ社会における黒人差別」を扱った作品があって、なるほどこの人は「SF作家」ではないのだろうなと再認識。スペキュレイティブ、スペキュレイティブですよ皆さん。

 

ベトナム戦争の傷痍軍人を扱った「バジリスク」や、ひたすらグロテスクな「血を流す石造」など、モラルに反するようでしかしインモラルではないような、なにか上手く説明がつかないのだけれど危険なビジョンが内包されている作品揃いで、やっぱりエリスンはクールでかっこいいのだ。「冷たい友達」を読んで、皆もピザの作り方を覚えるような人になりましょう!(さわやかな笑顔で)

 

表題作「ヒトラーの描いた薔薇」もインというかアンチ・モラルなところがあって良いんだけれどヒトラーも薔薇も話に関係なさすぎ吹いた。いや、出てくるんですけどね、ちゃんとね。

伊能高史「ガールズ&パンツァー劇場版 Variante」2巻

 

ガールズ&パンツァー 劇場版Variante 2 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

ガールズ&パンツァー 劇場版Variante 2 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

 

 カバー絵を見て1巻とはずいぶん印象を変えて来たなーと思ったら表4とか折り返しに遊びがたくさんあって楽しい(笑)内容はもちろん変わらず、各話ごとにひとりのキャラクターにスポットを当てて「行間を紡ぐ」(帯のコピーより)ものだけれど、1巻よりも読みやすくなってるように感じたのはなんだろうね。基本、時系列に沿ってエピソードが展開しているからか、前にあった「巻き戻し」みたいな感じは、皆無ではないけれど減ってるようには思います。それが良いか悪いかはともかくとして。

 

それと、各話メインのキャラクター以外も、たとえ少ないシーンでも印象に残るような描写が増えて、「群像」らしくなってきているようにも思います。特に木造校舎に移ってからが顕著で、第9話「ノリコ&キャプテンシー」はバレー部キャプテン磯辺典子のエピソードなんだけれど、ネトゲチームと歴女チームがカードゲームするという本編にもなかったキャラクター同士のつながりを描写しているのがね、なんかいいのよ。

 

そしてたぶん、今回描かれたいくつかのエピソードやキャラクターのつながりが、たぶん後々の伏線になってくるのではあるまいか。そんな展開を希望します。

 

それと、

 

ケイあずいいよね!(;゚∀゚)=3=3=3

上遠野浩平「パンゲアの零兆遊戯」

 

パンゲアの零兆遊戯

パンゲアの零兆遊戯

 

 

ページをめくったらサーカム財団なんてあったんで飴屋のシリーズも随分変わったなあと思ったら別に飴屋のシリーズではなかった(笑)

とはいえ設定的にはかなり近いところには在るようで、例によってみなもと雫が、あるいは死せるみなもと雫が、お話の重要な位置を占めている。お話自体はいつものかどちんで、世界を陰から支配というかコントロールというかワッチしている団体の傘下で「未来視」をするという触れ込みの人物が集まって、ひたすらジェンガをするという(正確にはジェンガじゃないんだがまーそんなもんだ)変な話です。例によってストーリーよりは韜晦した会話を続けることが優先みたいな雰囲気で、その辺もいつものかどちんなんだけど、まあなんか知らんが面白かった(ひどい感想だ)

 

たぶん、ヒロインの立ち位置がちょっと「歪曲王」を思わせるような気配というかノリがあるから、かな。統和機構と違ってサーカム財団は基本的には善良な団体なのかもしれないなー、とか。

「ハイドリヒを撃て!」見てきました

公式。お盆の休みにどこか遊びに行こうと思ったらあいにくの天気だったんで仕方なく新宿で映画見るに済ませた…ら、結構なアタリだったので満足です。以下ネタバレありにて。

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モリナガ・ヨウ「迷宮歴史倶楽部」

 

迷宮歴史倶楽部 戦時下日本の事物画報

迷宮歴史倶楽部 戦時下日本の事物画報

 

歴史群像」誌連載のイラストエッセイを単行本化した物。刊行にあたって連載には無い「戦時下日本の事物画報」というサブタイトルが付されている。内容としては掲載順ではなく、「戦時下日本の事物画報」に沿った記事をセレクトして再構成したもので、「この世界の片隅に」であの時代の日常に興味を持った人ならば楽しく読めるものでしょう。このタイミングでの刊行は「便乗」なのかもしれないけれど、時流に乗ればこそ、届く瀬もあり。片淵須直監督だって以前は歴群別冊で記事書いていたのだし、片淵監督や小峰文三氏と同じ「実証」的なスタイルを、もっと日常的な対象・視線で捉えたもの といっていいでしょうね。いわば「軍事のブラタモリ」だなーと。

 

調布飛行場掩体壕は見に行かないといけないね。その記事がコンクリートの品質や「風の谷のナウシカ」の王蟲のイメージが被るといった、モリナガ・ヨウの守備範囲の広さを端的に示しているのは面白い。

 

連載で読んだときも衝撃だったのは太平洋戦争中の「金属供出」のエピソードで、「軍隊による強制」のようなイメージで語られることも多いこの事例が(まあ、例によって)、軍隊ではなく行政組織全般に広く浸透していた作業であること、その気になれば融通も利く程度の物であったことなど、イメージと実際は随分違ってそうだな…と思わされたことでしょうか。もちろん誰もが自由に融通を聞かせられたわけではないし断れない立場・関係もあったでしょうが、率先して自発的に納入される例もありでそうそう簡単に「軍隊が悪かった」に収斂するものではないのでしょうね。むしろそれは、もっと大きなんー「悪」?から、目を背けさせることでもあるのでね。

 

NHKの朝ドラなどでおなじみの「空襲に備えて窓ガラスに*状に紙を貼る」光景が、当時の写真を「見れば見るほど見つからない」というのもそれなりの衝撃ではある。イメージで収斂されちゃってることって多いんだろうなあ。

池澤春菜「最愛台湾ごはん」

 

最愛台湾ごはん 春菜的台湾好吃案内

最愛台湾ごはん 春菜的台湾好吃案内

 

 

池澤春菜はガチ。

 

多芸多彩な著者が偏愛して止まない台湾ごはんについての、正確には旅行用ガイドブック。完全に実用に徹していて、地図案内などは店舗ページをスマホで撮影するとgoogleMAPが開く(アプリのインストールが必要)ギミックが施されている。おおう拡張現実(か?)

 

本人+編集+カメラマン及び現地学生ガイド2名による8日間のチャリ激走取材、1日平均20余店舗を見て・食べて廻ったコンパクトながら濃厚な一冊です、これから台湾に行こうという向きには必ずや美味しいところを教えてくれるでしょう。有名どころから現地の人も知らないような穴場まで、百花繚乱の巷。

食べ物もまた建物も、写真が綺麗で読んでいるだけでも楽しくなるものです。でも本文をよーく読んでいるとやっぱりえきぞちっくなアレコレ、多少は身構えて行かなきゃならんよーな気配もまあ、しますかね……「一人でも大丈夫」とあるのはメニューの量的問題なのであって、「レベル1ひのきのぼう勇者が一人で立ち向かっておk」ということでは、たぶんなかろう

 

残念ながら、自分が生きている間に台湾に旅行する可能性は限りなくゼロに近いのだけれど、だからこそ紙の地図はほしかったように思います。巻頭に「地図」が置かれていれば、「読み物」としては美味しくいただけるものなので。

 

巻末にはいくつか台湾料理のレシピも載っているので、それを読んで再現を試みると致しますか。お料理もプラモデルも、人が作ったほうがウマいのだけれど、自分で作ったほうが楽しいのだ。

 

たぶん、旅もそうなんでしょうね。

 

刊行記念のトークショーに参加したら取材中の楽しいエピソードのみならずツーショット写真(!)までいただけて、それはそれはおなかいっぱいなのじゃよ。

柞刈湯葉「横浜駅SF」

 

横浜駅SF (カドカワBOOKS)

横浜駅SF (カドカワBOOKS)

 

 WEB投稿小説サイト「カクヨム」からの出版作品第一号ということでやや身構えて読んだ(何故)のですが、しごく真っ当に面白い小説でした。「BLAME!」のパロディというかオマージュ的な要素が根幹にはあるのだけれど、普通に読みやすい内容、親しみやすい小道具、章ごとに新たな人物や展開が提示されるローリング感、まとまりの良さ。しいて言えばJR北海道のユキエさんが最後まで正体不明だったことと、デビュー作でこれだけまとまりのいい作品書くと後が大変じゃないかしらとゆーいらんお節介ぐらいか。

 

主人公のヒロトががただ流されているだけの存在で、そのことに対して自覚的なところが良かった。異世界転生無双とかよりはこういう話の方がいいなあ。

 

その上でもう一人の主人公(というかデウスエクスマキナ的な)であるJR福岡のトシルくんが好き。このふたりが一瞬だけ邂逅して、その後も特に人生で交わったりしないドライな感覚は好きです。

 

弐瓶勉のパロディというのは作者あとがきにも書かれているけれど、パロディというかフォロワーなんじゃないだろうか。アフタヌーン四季賞受賞作にありそうなお話ではあります。