ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ジャック・ヒギンズ「エグゾセを狙え」

エグゾセを狙え (ハヤカワ文庫 NV 361)

エグゾセを狙え (ハヤカワ文庫 NV 361)

くたびれたオッサンがくたびれた飛行機に乗っている状況を作り出せたら、それだけでもう冒険小説では勝ったも同然だ。そういう手合いは第二次世界大戦にはウヨウヨしていたし、50年代にはゴロゴロしていた。60年代でもピンピンしていたものだが、70年代には絶滅寸前だった。
ジャック・ヒギンズが流石ベテランだなーと思うのは「くたびれたオッサンがくたびれた飛行機に乗っている状況」を80年代に発見して真っ当な作品に仕上げるというような、他ではなかなか出来ない技を見せてくれる所である。
OKOK、大抵の作家だったらそういう状況は自ら作り出せるだろう。「アメリカ空軍最後のF4ファントム飛行隊を中東に展開させ…」とかだ*1しかし、現実に起きた状況を用いて、現実的な、地に足のついた冒険小説を書ける作家はなかなかいまい。ヒギンズはそういう状況をフォークランド紛争のアルゼンチン空軍に見つけた。あの連中は確かにすごいぞ。*2
エグゾセを狙え」は決してジャック・ヒギンズの最高傑作ではない。かといって最悪の駄作でもない。いわば中間所でどっちの話題にも出てこない佳作である。しかし佳作を作るのは難しいんである。全編は例によってのヒギンズ節炸裂で「ロマンチックな愚か者」たちがたまたま異なる政体に属していたことで対立したり利用したりされたりする。正しい側に属しながら間違ったことをしたり、間違った側にいながら正しいことをしたりする。この場合の「正しい」や「間違い」は何処かの国家を示したりは、しない。冒険小説の世界には「正しい国家」も「間違った政府」も存在しない。そこにいるのは「正しい人間」と「間違った人間」だけである。しばしば本当の「悪」は銃口を向けた先ではなく自分の背後にいて、自分を操る糸を手繰ったりしている。

テーマはフォークランド紛争だが、決してこれは「軍事小説」ではない。やはり「冒険小説」なのである。自分自身より遙かに巨大な国際謀略の渦に巻き込まれながらも、渦中に置いて自己を見失わず、障壁を乗り越え問題を解決し、どれほど苦難に溢れていても、信じる道を進んで止まない。

そんな話だ。

余談。

・表紙イメージは残念ながら表示されていないが、本書の表紙絵は世界で最も美しいジェット艦上攻撃機であるシュペール・エタンダール*3で、それだけでもう高得点なのだが、実は本編には出てこない(笑)

・久しぶりに読み返して気がついた。自分は「寝取られ属性」に弱い。すごく弱い…

*1:リチャード・ハーマン・Jr「第45航空団 (新潮文庫)

*2:ネット上でも時折画像や動画を見かける。まるでスターウォーズのXウイングみたいな飛び方をしている

*3:ちなみに世界で最も美しいレシプロ艦上攻撃機流星改だ。どちらも俺調べですが何か?