ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

エドモンド・ハミルトン「鉄の神経お許しを」

先週辺りに書店で見かけてこれはいずれと思っていたが、イロイロなイキオイ(何)で買ってきた。いやぁ古びない不朽の名作だなあって短編読んだのは初めてですが(汗)

キャプテン・フューチャーの魅力は(もちろん人それぞれでしょうが自分は)何と言っても不屈のフューチャーメンがそれぞれに抱えている内面の弱さや無名の市井人が保持している意外な強さなどの「ギャップ」だと思う。萌えとかツンデレとか呼ばれている物の正体が(なんて言うと色々な所から突っこまれそうですが)多くは人の持つこの内と外の差だったりする…だろう。この短編群が長編シリーズ終了後しばらく経ってから新たに書き起こされたという成立過程は今回初めて知ったのだけれど、やはりその為だろうか個々のキャラクターの内面に迫るようなものが多い。表題作「鉄の神経お許しを」なんかまさにそれだし、「忘れじの月」は惑星パトロール司令エズラ・ガーニーの抱える古傷を――直接読者には見せない形で――描いている。フューチャーメンの中でももっとも冷徹な(ある種非人間的な)言動のサイモン・ライトが彼なりに抱えていたひどく人間的な願いが形になる「衛星タイタンの<歌い鳥>」も長編では描かれることのなかった主題で楽しいところだ。

それでもこのパルプ・フィクションの良いところはどんなに虚無感に溢れていても前向きに終わるところで、図らずも未来の地球に還ってきてしまった遭難宇宙飛行士の悲哀「もはや地球人では……」の爽やかなエンドはこれこそSFの持つベクトルだ!と胸を張って進めたいものである。いや人に勧められたんですが(汗)

これまで自分はキャプテン・フューチャーことカーティス・ニュートンの持つ弱さは「普通の人間として暮らしたい」だと思ってきた。*1けれども今回収録されてる2編、行方不明の友人を追って精神エネルギー体に変化し太陽に飛び込んでいく「太陽の子供たち」と自分の好き勝手な宇宙を創り上げようとする科学者の陰謀を阻止する「<物質生成の場>の秘密」を読んで少し修正。キャプテンの弱みはどうしようもなく知的好奇心の欲求には勝てない所にもあるのだろう。「この地獄の罠のなかに世界の謎を解く秘密の鍵が在ります」と言われりゃふたつ返事で飛び込んでいくヒーロー!ステキだ!!

…で、自分が最も気に入った「キャプテン・フューチャーの帰還」はなにが良いって鶴田謙二描くところのアメーバ状生物に寄生されたジョオン・ランドールのイラストがハァハァでモエス

ネタバレ無しで全作解題するのって大変なので掌編・コラムに関しては買って読んでくれ皆の衆、キャプテン・フューチャー入門にはピッタリの一冊です。

*1:何かの事件が解決されて、市井の人々が浮かれ騒いでキャプテン・フューチャーを讃えているその場所を通りかかって、少しだけ「普通の生活」に憧れる場面があって大好き