第二次大戦の歩兵対戦車戦闘 (オスプレイ・ミリタリー・シリーズ―世界の軍装と戦術)
- 作者: ゴードン・L.ロトマン,Gordon L. Rottman,Steve Noon,三貴雅智
- 出版社/メーカー: 大日本絵画
- 発売日: 2007/05
- メディア: 単行本
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「世界の軍装と戦術」シリーズ2巻だそうだが軍装はあんまり関係がない(苦笑)
こと第二次世界大戦の時代では「最良の対戦車兵器は戦車」だとよく言われる。それは確かにその通りで敵戦車を撃破し得ない戦車というものはおよそ役に立つシロモノではない。しかしながら統計をとってみれば最も戦車を破壊したのは地雷と対戦車砲であって戦車の順位は実は低い*1そこで実際の現場ではどうやって人は戦車と戦っていたのか…を米英独ソ日の主要五カ国の兵器と戦術を例にとって分かり易く解説した本。いや面白いぞこれは。
対戦車ミサイルや戦術攻撃機の進歩した現代はともかく、二次大戦の時代では戦車は陸戦の王者であるかのように思われがちだが事実はそうではない。優れた戦術と適切な兵器を用いて有効な打撃を与えることが出来れば只の人間でも十分撃破は可能だったのだ。出来れば、の話だが。
第二次世界大戦に於ける戦車の「恐竜的」な発展は特にドイツに著しいものがあり、開戦時はI号、II号の軽戦車が主力であったが末期にはパンターやティーガーIIといった化け物じみた車輌が配備されていた。急激な発達は対戦車兵器に於いても同様で大戦初期の対戦車ライフルや小銃擲弾はバズーカやパンツァーファウストといった携行式ロケット砲に取って代わられ、当初37ミリで十分と考えられていた牽引式対戦車砲は最終的には128ミリにまで巨大化した。血を吐きながら続ける障害物競争みたいな、対戦車戦闘とはそういうものであって、決してタイガー戦車ののぞき窓にトンプソン突っこむようなモノではないのだ。
…しかしこの分野でも日本軍は圧倒的に立ち後れていて、列国が成型炸薬弾*2をロケットや無反動砲でバカスカ撃っていた時期、日本軍が導入したのは長柄の棒に弾頭を付けた「刺突爆雷」である…*3
戦車がどれほど「死角」を持っているか、車載機関銃がどれほど有力な兵器か、二輌以上でグループを組んでいればどれほど有効に相互近接支援が出来るか等、歩兵の視点から見える戦車という兵器の特質も述べられていてちょっとオススメなのである。いやどの向きに勧めればいいのかよくわからないのだがw
余談。本書の巻末訳注で驚愕した一節。
ビルマ戦線の戦例では、英第3カラビニアーズ騎兵連隊のM3リー戦車の車内に飛び込んだ日本軍将校が、装填手のリボルバー拳銃で蜂の巣にされて撃ち倒されるまでに、軍刀で戦車長と砲手を斬殺したと記録されている。
一般的に歩兵の対戦車戦闘というのは投入されるリソースに対して得られる成果は少ないものである。それでも10人が死んで戦車1輌破壊できれば費用対効果の点では良好だ、という計算式でその機械は動かされている。