- 作者: 光岡明
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1984/07
- メディア: 文庫
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読書という趣味は量子力学と似ている。フタを開けてみないとわからない。*1
本の大海の中に未だ知らざる傑作があり、自分は果たしてそれに出会えるのかというある種の焦燥感が自分には在って*2、ごくまれにそういったものに本当に出会う時がある。なんと言う喜びか、これは他に変えがたい。シュレディンガーの猫は元気だった!
旧日本海軍は何処で敗北したかという話があって、普通はミッドウェーやガダルカナル、レイテなどの「海戦」が挙げられるだろう。しかし実態としては名も挙げられることがないありとあらゆる海上で、航路で、湾内で、日本海軍は一敗地にまみれていたのだ*3美意識的な華々しさも、自己満足的な悲劇性もない、誰が好んで取り上げるかという「すくわれなさ」、それは救われないという意味であったり、掬われないという意味であったりもする。ある意味地味なのだけれど、それ故の悲壮さがある…ような。
主人公が乗り組むフネがまず海防艦で船団護衛だというところからして裏方なのに、以後敷設艦*4で機雷堰の敷設→哨戒特務艇で敵機雷の掃海→試航船で…
試航船とはなんぞや。
そういうものがあったとは、自分も初めて知った。タイトル及び上記した主人公の軍歴を見れば感の良い人は察しがつくかも知れないがこの話は昭和20年8月15日には終わらない。
当初は単に主戦場から外れているという個人的な鬱屈が、やがて圧倒的な技術戦力の差に打ちのめされ、更に戦後の喪失感につながっていく負のダイナミズム、合理性に裏付けられた不条理、死生観など歯牙にもかけない現実の重さ。
こういう話こそ映画化とかすべきじゃないのか…と思う。ちなみに第86回直木賞受賞作だそうだが、現在どれほど人口に膾炙しているか定かではない。