ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

カート・ヴォネガット「国のない男」

国のない男

国のない男

ヴォネガットは今天国におります(笑)

というわけで希代のヒューマニスト、最後の一冊。どこかで読んだような話題も散見されるが、批判するよりはむしろ同じネタ使い回して原稿埋められる程度には彼と彼の著作権代理業者は優秀であったと思いたい。
ヴォネガットが「その他大勢の人類」から一歩抜け出して世界の水平線上に現れたときには、世の中的には一周ほど遅れてきた人だったらしい。邦訳される際にまた一周遅れて、自分が初めて読んだときにはざっと三周ほど遅れていた(と思う)何たる遅延かこれではどんなアキレスだってカメに追いつけないぜ。などと思うのは早計で、幸いなことに彼と彼の作品は大抵の場合紙媒体だったので今でもほとんど読める。印刷技術ばんざい!おまけにヴォネガットはもうこれ以上作品を発表することはない――天国というのはイチジクとリンゴ以外特に何もないところだそうで、たぶん締切も編集者も存在しないだろう――ので、もうじき追いつくぞ、カート!

ヴォネガットが世に示したことで重大なものはいくつかある。とりわけ重大なのは、この事についてSFマガジンの追悼特集では誰も触れてなかったようだが*1、ずばりアスタリスクの使い方だ。つまりこれね→* 本書もあらゆるところが*だらけで、いやはや大変だ。

思想(?)的には本書に掲載されてる詩をひとつ引用すれば事足りる。個人的にはあともうひとつあるけれど、その点に関しては本書では言及されてないので割愛。*2

I WANTED ALL
THINGS TO SEEM TO
MAKE SOME SENSE,
SO WE COULD ALL BE
HAPPY, YES, INSTEAD
OF TENSE. AND I
MADE UP LIES, SO
THEY ALL FIT NICE,
AND I MADE THIS
SAD WORLD A
PARADISE.

なるほど。

訳?訳文は…本書の18ページに載っているから買って読みなさい。

ところで訳者はあとがきで若い人にもヴォネガットを読んでほしいと勧めている。が、自分は反対だ。*3ヴォネガットの本などいつでも読める。年寄りになってからでも十分追いつける。若いうちはその時にしかできないこと、いつか消え去ってしまうような物にこそ、エネルギーを費やすべきです。

化石燃料とか。

ところでヴォネガットが本文中で若者に勧めていた一冊、マーク・トウェインの「不思議な少年asin:4003231112というのを読んでみた。

なるほど。

到底第一次世界大戦の前に書かれた本とは思えなくて、これは若者向きである。

そう言って、彼は消えてしまった。わたしは呆然と立ちつくしていた。彼の言葉がいかに真実であったか、はじめてしみじみとわかったからである。

プーティーウィッ?

*1:ちゃんと読んでないので、もしあったらごめんなさい

*2:例の秋葉原デモのその後の顛末を知ったら「母なる夜」で提示されていた哲学を思い出した。なるほど。

*3:何故って、ヴォネガットの思潮は終始一貫していたからだ。それは終始一貫してなにかに抵抗するものであり、終始一貫して少数派であり、ついでに言うなら終始一貫して負け組の思潮だったからだ。