公式。なんか今年は戦争映画ばっかり見てるねえ。上映直前隣の客がとんでもないネタバレトークをかましてくれたのでおっ殺すか( ^ω^)。みたいな気分になったのだけれど、おかげで映画の内容にスムーズに入り込むことが出来ました。ありがとー隣の席の人。
以下ネタバレありですよ。
この映画は3つのタイムラインから出来上がっていて、陸海空それぞれのパートで1週間/1日/1時間の流れが過ぎていきながら、106分の映画のラストシーンで収束する、極めてアクロバティックな構成となっています。それがわからないと、ちょっと戸惑うかも知れません。それぞれのパートにはそれぞれ視点人物がいて、基本的にはその人物の視点で捉えたものしか描かない。しかしひとつの同じ場面が違うパートで別の人物の視点として描かれたり、「巻き戻し」みたいなところもあります。とはいえ全体の流れとしては一貫しているので、「硫黄島の星条旗」のような意図的な時間軸の混在はありません。
ダンケルクってね、地味な戦いではあるのでどんな映画になるのか若干不安でした。昔の映画が深夜TV放送されたことがあったけれど、なんか退屈で途中でやめちゃったのよね。今回はどうだったかというと
最初からクライマックスでした。
それまでの引きとか歴史的背景とか一切なしに突然「状況」に投げ込まれて、なんだかよくわからないまま右往左往して必死に生き延びる。「必死だなwww」とか言ってる余裕もなくどうにかして生きる。陸のパート「防波堤:1週間」はだいたいそんな感じ。主要な人物は3人だけど、なかでも「主人公」の名前がただのトミーだったのはまあ、無名戦士といったところでしょうか。原隊からはぐれ正規の撤退手段を失った無名の兵士が落ちていた負傷兵を(本当に落ちている)担架ごとひろって、救護兵に化けて病院船に乗り込もうとしたり(だが拒否られる)、高地連隊に紛れて駆逐艦に乗り込んだり(しかし撃沈される)なかなかダンケルクから逃れられない圧迫感と絶望と、とにかく重いパートです。
海のパートは「海:1日」として民間の小型遊覧船ムーンストーン号の船長ミスター・ドーソンとクルー(といっても息子とその友人)が海軍の徴用を受ける前に「自発的に」ダンケルクを目指して出航し、救出作戦に従事する様を描いています。航海途上、漂流していたイギリス軍の兵士を一人救助しながらも、その兵士の帰還の望みを無視してでもダンケルクに向かう勇気や決意や、ある種の「感動」を謳うのはこのパートかも知れません。
空のパートは「空:1時間」、スピットファイア戦闘機のパイロット、ファリアの目を通して、あくまでそこから見える範囲で戦場を俯瞰していきます。このパートはとにかく飛行機が美しい!ので航空ファンの方にはオススメ、しかし最も重い決断を迫られるのはこのファリアなのでした。
ダンケルクの戦いは日本では(いやイギリス以外の全世界がそうだと思うけど)そんなに知られたエピソードではありません。ダイナモ作戦は戦史に残る出来事で、歴史の流れの大きなポイントのひとつであることは確かです。しかしながら連合軍にとってはやはり「負け戦」で、なかなか華々しく語られることでもない(プログラムには「ダンケルク・スピリット」という文言が踊ってるけどそんなん初めて聞いたぞw)。それでもこれだけいい話、綺麗な映画に作れるのは、勝った側だから出来る事であり、やはり戦争には勝っておけということなのでしょうか。とはいえ負けた側でないと「この世界の片隅に」みたいな作品は作れませんし、それは仕方がないのだろうなあ。日本で徴用漁船モノなんてとても映画に出来ません……
出来れば吹き替えで見たかったんだけど残念ながら字幕版のみの公開で、いきなりIMAX4Dとかだと訳が分からなくなりそうだったので、敢えて2D上映を選んだのは良かったかな。なるほど「体験」映画だしアトラクション風でもあるのだけれど、まず内容を理解して、プラスアルファはいずれまた何かの機会で。しかしこの映画日本でどこまで受けるんだろう?テーマとしては地味だからねーうーむ。
歴史的背景とか全部切っちゃって語らないのはすごいと思います、並みのクリエイターではなかなか出来ないことでしょう。むしろプログラムでライターによる背景記事とか読んでも、ちょっと邪魔(って言ったら言葉が強すぎですが)なので、それはそれで不思議な感覚です。
ラストシーンでは、ある死者の写真が「ダンケルクの英雄」として新聞の、地方の小さな新聞紙面を飾ります。その人物は作品の中でなにか大きな活躍をするわけでもなく、華々しく亡くなるわけでもありません。しかしながら、誰に命じられることも無く、他人のために行動し、自分の可能性を閉ざしてしまうのをいとわなかったこと、それが称えられるべき行為だと、そういうことなのかな……おまけみたいなシーンなのだけど、ちょっと考えたのよ色々とね。
10月1日までやってたらもう一度、IMAX上映に行きたいなあ。