- 作者: 松井広志
- 出版社/メーカー: 青弓社
- 発売日: 2017/08/09
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
面白かった。実に実に面白かった。模型の本というか社会学の本なんだけど、ひとつの文化と人類に関する、これまで無かったようなアプローチの論文です。ひとくちに「模型」といってもいろいろで、世の大抵の「模型本」が昭和ノスタルジアで止まってしまうなか、模型の持つ意味と機能、その変異を近代以前から現代に至るスパンで研究したもの。模型の人に読んでもらいたいけれど、社会学というか「哲学」の人にも読んでもらいたいな。
本書の意義は、日本社会における模型の考古学的なメディア史分析を通して、人とモノとの多層的な関係のなかで、あるメディアが形成・変容されてきたプロセスを示したことである。
巻末付近の一節より。近代には未来であり、戦時中には実用であり、戦後は趣味となって行った「模型」は、それ自体がひとつのメディアであって、なにかを媒体する働きを持っている。プラモデルと関わってそれなりに時間が経ったけれど、これまでこういう本はなかったものね。模型雑誌や模型メディアも(あるいは模型ジャーナリズムも)もっといろんな視点があって然るべきなのでしょうけれど、なかなかそれも難しいのだろうなあ。それでも、ところどころに且つ論旨の重要な箇所で引用される模型雑誌の記事からは、模型というメディアを強力に牽引してきた模型メディアの姿が伺えます。そういう歴史の本でもあり。
太平洋戦争中、模型材料が逼迫して竹ひご不足に陥ったとき、代用素材としてススキが奨励されていたというのはかなり衝撃的だった。これもまた、この世界の片隅で起きていた出来事なんですねえ。