ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ジェラルド・カーシュ「犯罪王カームジン あるいは世界一の大ぼら吹き」

最近の若い人は戦後日本の立役者のひとり、吉田茂元総理大臣がカニバリスト(人肉嗜好主義者)であったことをご存知だろうか。うろ覚えで恐縮だが新聞記者と次のような問答をしたのだとかで

「総理はふだん何を食べていらっしゃるのですか」
「人を食っているのだ」

ポリポリ。ヒィィィィィ(゚ロ゚;ノ)ノ  

とゆーよーな意味で人を食った感じのユーモア・ミステリー短編集。考えてみればジェラルド・カーシュは「壜の中の手記」*1も「廃墟の歌声」も人を食ったような話が多かったなあ。この2冊、晶文社版でお持ちの向きは若干重複する作品が含まれているので注意。角川文庫版「壜の中の手記」からは巧妙にカームジンものが除かれているのであった…

連作短篇カームジンものの骨子は今でこそ尾羽打ち枯らしている希代の犯罪者(自称)カームジンが昔日の体験を私ことカーシュ本人に語って聞かせる形式で、副題の通りにホラ話と紙一重みたいな与太ばかりである。大抵の場合は悪党相手の詐欺話、コンゲーム的な犯罪譚で読んでいても特に良心が痛まない(笑)そして毎度毎度ガッポリ大金をせしめた昔話が終われば貧乏くさい現実がガッカリと待っていてクスクス笑える。シリーズが進むと(すなわち原稿が売れていくと)「私」の方が羽振りが良くなって行くところはニヤニヤ笑える。全17編のカームジンものが乗っているがマイベストを挙げるとすれば「カームジンと豪華なローブ」だろうか。なるほど鈍器よりはさみより、ナイフよりもショットガンの方が便利である。何に?

ボーナス・トラックと称してノンシリーズの短篇も二つ採録されている。そちらは異色な、ちょっと毒を含んだような作者の王道っぽい小品。さらにシリーズ概要みたいな解説があるのだがそれによると、


カームジンって実在するモデルがいたのか。


しかもそれはキャラクターの一人として既に登場していたのか。


と、なんだか人を食ったような、話なのである…