ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

I.I.ロストーノフ編「ソ連から見た日露戦争」

ソ連から見た日露戦争

ソ連から見た日露戦争

またぞろNHKで「坂の上の雲」放送らしいんで、視るかどうかはともかくそれとは違って視点の日露戦争を知りたくなって読む。原著は1977年刊行。日露戦争って「二百三高地」と「日本海海戦」ぐらいしか知らんしな。思いのほか読了に時間を食ったのはソビエト史観の文章にヘキエキとかではなく(実際それほど酷く偏向した訳文ではなかった)ずっとPSゲームの「キングスフィールド2」をやってたからでもなく(隊長、やっとフレームソードが手に入りましたぁぁぁぁつ!!)、自分自身に日露戦争の基本的知識が欠けているのでなかなか内容が頭に入ってこないからだなと痛感した。やはり二百三高地日本海海戦ぐらいしか知らないままではイカンので自分も「放課後ワールドウォー」*1を読んで勉強しなくては…あとFAQも忘れずに*2

と言う訳であんまりものを知らないですから本書の内容について詳しく分析するのは控えます。個々の記述よりもむしろソビエト―ロシアからみた俯瞰的な視点が興味深くはあり、日露戦争とは直接関係ない、歴史的背景の記述で帝政ロシア政府が

一八六七年にアラスカとアリューシャン列島をアメリカに売却し、一八七五年にロシアのものであった千島(クリール)列島を日本にたいした理由なしに譲渡したことによって、太平洋におけるロシアの国益に大損害を与えたのだった。

現在に至るロシア共和国の政治外交、特にアジア太平洋方面でのそれにはこの背景が強烈に刷り込まれているだろうなと思う。90年代ソ連末期の北方領土四島の危機的状況も含めて。あとロシア陸海軍双方とも上層部が無能な敗北主義者ばかり*3でナニでございますな、例えソビエト史観で登場人物全部敵役とはいえ、1920年代のいわゆる赤軍大粛清で殺された将官とか佐官とかって、決して有能な人物ばかりではなかったんだろうなーと邪推する。全部が全部トハチェフスキーではあるまい。


旅順要塞の攻略線がいわば本書のクライマックスとなるわけだれど、これまでなんとなーく想像していた「火力十分のロシア軍VS銃剣突撃日本軍」という構図があまりに一面的で狭量な視点だったと省みられてやっぱいろいろ、勉強になります。第一次世界大戦で起きたことは大抵日露戦争で先駆的になされていたなんて話にも実に納得。ここまでは――というか第一次世界大戦時の青島攻略戦までは――日本軍の方向性って間違ってないんだよな。問題はその先か。しかし旅順要塞水兵の

自分の技術を駆使して、艦用機雷装置を使って、敵軍の陸上陣地にたいし海軍用機雷を発射させた。時には、重さ一五○キロをこす球状の敷設機雷が日本兵の配備されていた坂をころげおちていって、多大の損害をあたえたのだった。

なにそのパンジャ(ry NHKで映像化してくれないものだろうか。無理か…

実は、ソ連側視点の日露戦争本といえば「ツシマ」というのを昔読んでいる。現在では2巻本で分冊されているのか。*4すごく変な状況で読んだんで内容も覚えていないしそもそも読了したのかすらはっきりしないんだけど表紙に「スターリン賞受賞」と書かれていて負け戦なのになんでだろうと、それが不思議だった。それで本書のツシマ海戦(日本側では日本海海戦)の章を読んでたら

ツシマはツァーリズムの不吉な記念碑として歴史の中に収められるとしても、そこにはロシア艦水兵の勇敢さと偉大な功績が発揮されていた。これらの水兵たちは、艦隊を立派に三つの大洋を渡航させ、大海戦を闘う偉業を完遂したのだった。ロシア艦の大多数は老巧艦であり、その砲弾は敵にくらべて小さく、爆薬の重量も少なく、艦の装甲事情も弱体ではあったけれども、ロシア艦水兵は、敵の優勢な艦隊と英雄的にたたかったのだった。

あーなるほど、そーゆーことねと長年の疑問が氷解して納得。ソ連にとって帝政ロシアは敗北しなければならないし、末端の兵士は有能でなければならないと、そういうことか。しかし子どもの頃に読んでた本でよく「世界最強のバルチック艦隊云々…」なんて書いてあったのも、あれも日本側視点のバイアス掛ってたんだよなー。

ところでこの本、講和条件とポーツマス条約については本当にあっさりとしか書いていないので日露戦争に於けるアメリカの役割とか知りたい人には物足りないかもしれません。戦争中はさほど関与してないんで、仕方ないんですけど。それに加えて天候・気象に関する記述が全然ないです。日本では青森第五連隊が遭難するほど危惧していた満州の冬も、ロシア人にとっては何事でもないということでしょうかね??

*1:asin:4863203160

*2:http://mltr.ganriki.net/faq11rj.html#21326

*3:優秀な人間は早死にする人間である

*4:上巻asin:4562045396、下巻 asin:456204540X