- 作者: R ジョーンズ,半田倹一
- 出版社/メーカー: 岩崎書店
- 発売日: 1976/01/01
- メディア: 単行本
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と聞いただけで胸が高まり心が跳躍する人はみんな俺の同志だ。
現在は「合成怪物の逆しゅう」asin:4265951376に改題されて版を重ねている岩崎書店のジュブナイル翻訳シリーズ「SFこども図書館」25巻。小学生の頃散々読み倒したいくつものジュブナイル叢書が、ふと図書館の児童書コーナーに目を遣ると山ほど配架されていたのでヨダレをダラダラ垂れ流すと変質者と誤解されいやおれ変質者じゃなくてただの書痴ですから!とか弁明する自信も無いのでとりあえず小学生当時いちばんのお気に入りだった本書を借りてくる。
ストーリーは大体…
電子頭脳に代わって死者の脳髄を利用した「人工頭脳」による計算と統治が蔓延している未来のアメリカ社会が舞台で、人工頭脳センターに勤めていた若手研究者のジョンが妻のマーサと共に交通事故に遭い死亡、生前交わした契約に基づき彼の脳も「人工頭脳」の一部として接続される。しかし人工頭脳センターは優秀な人間と契約書を取り交わしては事故を偽装して亡き者とし、脳だけを利用する陰謀組織だったのだ…!肉体を失いながら意識は失わずに機械の中で目覚めたジョンの運命や如何に!?
的な。実にB級テイスト炸裂だが、amazonでは旧版本の書影が無かったので表紙をスキャンしてみる。実にすばらしいイラストである。
小学生でこんな表紙の本を読んだ子が歩む道は二つしかない。トラウマになるか好き者になるかである。無論僕は、後者を選んだ。少しも後悔はしていない。
さて生前から優秀な生化学者であったジョン君はコンピューターのなかのゴーストと化しても端末を利用して自分の手足、肉体の代わりとなる存在を作り上げる。差し詰め攻殻機動隊2巻の素子と素子みたいな遠隔操作体なのだが、残念ながら本作に登場するのは巨乳美脚エロ少女でも何でもなくどっちかというと…
こんな感じだ。 こ れ が 主 人 公 で こいつが合成神経細胞群塊こと ゴ セ シ ケ なのです。
スライム状の肉体に目玉一つと鋼鉄の義歯を持って一対の筋肉でぴょんぴょん跳ねるだけの存在を駆使して巨大な陰謀に立ち向かっていくとゆーのはなんだか手塚治虫のシュールなSFマンガに通じる皮肉さもありで、良い意味でイカレてます。同じく人工頭脳に接続されていたマーサ、義兄のデミング博士らの協力者を得ていくジョンであったが、人工頭脳センターの背後に控える黒幕はアメリカ政府そのものであり…
原題を“The Cybernetic Brains”と云う。1950年の作品である。マッカーシズム吹き荒れるそんな時代にこうも堂々と政府陰謀フィクションを書いてることには驚かされた。小学生の頃には思いもよらなかったなー。作者のレイモンド・F・ジョーンズというひとはかの有名なSF映画「宇宙水爆戦」の原作を著した人なのだそうで、科学文明の発達進歩に警鐘を鳴らすような、そういうスタンスは一貫されているようだ。ジュブナイル向け・ダイジェストな作品ではあるけれど、こういう所からSFのほそ道に分け入ったもので、現在でも図書館に置かれていることには胸が熱くなる。いまこれを読んだ子供はどういう大人になっていくのだろう?好き者には、なってくれますか??
ひとつの閉鎖的な大規模システムの一部としてではあるけれど、コンピューターをネットワークとして描写している様子は実にイマを先取りしているように思える。差し詰めゴセシケはモバイル端末だろうか。原作では単に“Frog”とか呼ばれてるらしいこの物体に実にすばらしい日本語名とイラストを与えてくれた翻訳・挿画の御ふたかたを僕は一生尊敬する。
最後にジョンとマーサによってはじめて外界に送り出される2体のゴセシケの挿絵を貼っておく。日光に焼けただれ犬になぶりごろしにされ、子供に石を投げつけられるその姿は、実にハードボイルドだと思う。