ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

アーサー・C・クラーク「海底牧場」

海底牧場 (ハヤカワ文庫SF)

海底牧場 (ハヤカワ文庫SF)

 

 

クラークあんまり読んでないなーと思って手に取る…が、実は昔読んでいる。岩崎書店ジュブナイル版「海底パトロール」を小学生の頃にねー。そのときは話の途中で主人公が突然事故死してしまって、それまで脇だと思っていたキャラが主役に繰り上がるような展開に随分驚いたのだけれど、オリジナルを読んでみたらドン・バーリーは第1章の視点人物なだけで別に主役でもなんでもなく、その死に至っては「帰ってきたら結婚するんだ→死」という、おそろしく雑な死亡フラグ立てに笑わされてしまう。「海底パトロール」を訳したのは福島正実だそうだけれど、かなり翻案してたんだろうなあ。

本筋は元宇宙飛行士で宇宙船の事故によるトラウマを抱えて世界連邦食糧庁の牧鯨局に転職したウォルター・フランクリンが、トラウマを克服し正規の監視員となり、経歴を重ねてやがて官僚機構に従事しある大きな決断をする…というようなもの。原題「THE DEEP RANGE」よりも邦題の方がずっと直接的で、要するに海で鯨を養殖(放牧)してカウボーイならぬホエールボーイがそれを管理する社会を描く、よく「クラークは未来を予見していた」なんて言われる際にはあんまり引き合いに出されない作品。

なんだろうなー、3部構成の第1部「練習生時代」と第2部「監視員時代」は、どちらかというと古き良き(なにしろ半世紀以上前のSF小説です)海洋冒険SFみたいで、謎の巨大深海生物を追い求めるような流れなのだけれど、第3部「官僚時代」で突然セイロン島の仏教原理主義者が出て来て鯨食に反対する社会SFになる、というのはどうにも乱暴な気がしなくもない…。キリスト教イスラム教も他の何もかもが捨て去られた「世界連邦」で、なんで仏教が大きな地位を占める設定にしたんだろうと思ったら原著が刊行された1957年ってクラークがスリランカに移住した時期なのね。

 

なるほど。

 

クライマックスも唐突に起きる海難事故と英雄的な救出活動でどうにも展開が雑…なんだけれど、「海洋SF」のイメージを作り上げた、これは記念碑的な作品ではあるのでしょう。それと、クラーク作品にしては珍しく(?)ヒロインのインドラ・フランクリン(旧姓ランゲンバーグ)女史、ウォルターの妻にして二児の母であり生物学者でもある褐色美人キャラさんが実に実に魅力的です。

 

きっとメガネだな。メガネに相違あるまい。