ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

R・A・ハインライン「レッド・プラネット」

創元SF文庫の未読を読んでみるキャンペーン(何)ハインラインジュブナイルSFも色々読んでたけど、これは未読でした。Amazonの書影は現行版が出てるけど、図書館で書庫から出してもらった旧版で読めてむしろ良かった。なにしろ古い話だ(興味ある方はヤフオクあたり見れば出てきます)。

テラフォーミング半ばの火星を舞台に、寄宿学校の新任校長がそれまでの自由な校風を管理教育に変貌させて、それに対する少年主人公ジムとフランクの反発が、やがて火星開発を司る火星カンパニーの、火星植民地(開拓民)に対する陰謀を明らかにするというなんだか学生運動みたいな流れですが、原著は1949年刊行です。「いちご白書」より全然前です。で、まあ当然ハインラインなので権力への反発も左派社会主義ではなく家父長制的自由主義に基づくものとなります。主人公はあくまで少年二人なんですが、物語を大きく動かすのは大人たちが催行する「議会」の決断と行動なのですね。わーWASPえすえふって感じだ。男性優位というか女性キャラが全然出てこない、ジムのカーチャンと妹しか出てこないような物語で、唯一登場する婦唱夫随なキャラクターは開拓民の中でも反対派な立ち位置でおまけに真っ先に死んでしまってとかモラルやジェンダーロールの点で古めかしさは否めないんだけど、実はあんまり気にならなかった。

 

なにしろ火星そのものがえらく古典的というか古めかしいというかぶっちゃけ非科学的というか非現実的だったもので。

 

運河があり氷の海の上をスクーターが滑走し謎の原住生物や原住火星人がウロウロしているそんな火星を、いま書いたら通らないだろうねえ。75年も前のSF、むしろ異世界ファンタジー的に読んでしまえばいいのだろうなあ。男子2人のブロマンスもの、メインとなるのは火星の運河をスケーティングで駆け抜ける逃避行か(実際新版のカバー画はそれである)。非科学的、非現実的な火星と言えばブラッドベリだけれど、あれほど詩情に溢れているわけでもない。フムン。

 

ハインラインの長編としてはまだわずかに5作目、言葉の足りないところや展開のせわしなさはあるのでしょう。それでも後年の「ラモックス」や「月は無慈悲な夜の女王」に通じるキャラクター配置やテーマが伺えて、それは面白かった。一見ただの毛玉のようでいて実は大きなカギを握る原住生物「ウイリス」は、なんか藤子・F・不二雄のマンガに出てきそうではある。あーそうか「21エモン」とか「モジャ公」とか、そういう感じにSFなんでしょうねたぶんね。

そしてつくづく思う、80年代日本サンライズアニメの描いていた未来は、アシモフでもクラークでもなくハインラインの未来、闘争と英雄の未来だったんだろうなあと。ガンダムの元ネタは宇宙の戦士だとか、そういうことでもなくて。