創元SF文庫の未読を読んでみるキャンペーンその2。以前からタイトルだけは知ってましたねこれ。でも3部作だとは知らなかったし、魔法の力が支配する宇宙が舞台のスペースオペラだということも知らなかった。覇国(ヘゲモニー)が支配する極めて男尊女卑な社会にあって、極めて珍しい宇宙船の女性パイロットであるヒロインのサイレンス・リーが繰り広げる冒険の旅路…と言ったところか。冒頭、船長である祖父を失い不合理に乗船を没収されたサイレンスが、その境遇を脱すべくバルサザー船長とエンジニアのチェイス・マーゴ2人が所有する宇宙船<サン・トレッダー>号に雇われそのまま2人と結婚し
あーいや、偽装夫婦ですね。複数婚も許されている社会で、ある目的のために3人は事務的な婚姻関係を結びます。この宇宙を現在支配しているのは覇国の貴族政社会なんだけど、主人公3人は皆覇国に負けて征服された側の人間で、では彼女たちがそこで何を成し遂げるのか?というのがひとつのテーマか。女性作家による80年代ジェンダーSF、社会的地位を貶められている人々を主役に据えているのだけれど、覇国の支配体制も軍事力も非常に強力なものです。<サン・トレッダー>号は実は覇国に対抗するテロ組織というか宇宙海賊<神の怒り>の支援をやってる宇宙船で、そして否応なく軍事作戦に巻き込まれアッという間に敗北し3人は覇国の捕虜となり……と、やたら展開は早い。その後コードギアスのギアスじみた神命(ガーズ)を掛けられ抵抗の意志を奪われ覇国の半ば奴隷的な地位に置かれしかしサイレンスに秘められた力によってその窮状を脱し再び独立した宇宙船に乗り組んで、今やその存在は秘匿された人類発祥の地「地球」へと向かう――という、なかなかに燃えるストーリーです。魔術的宇宙と言えば「宇宙英雄物語」を思い出したんだけど、あれより先だものねえ。スター・ウォーズ旧3部作の影響でスペースファンタジー的な作品も多かった時代でしょう。とりわけ惹かれるのは天上物質ハルモニウムを音響竜骨で奏でながら飛翔する宇宙船の在り様で、覇国の宇宙艦隊が天空から音楽を鳴り響かせて地上を蹂躙していく本書中ほどの戦闘シーンは圧巻です。地獄の黙示録か。
ああそうかアニメの「銀英伝」がクラシックをBGMに使ってたのと、通じるものもあるのかな?なんとなくね。
ヒロインが2人の男性と重婚するというのは結構驚いたんだけど、それが許され、且つちょっとどころかだいぶ奇異の目で見られる社会というのもなんか面白かった。捕虜になった時も「実は夫婦なんです、3人で」と申し出たら驚きつつも3人同じ船に乗せてくれる覇国の人たち、実はいい人なんではないだろうかいやあるまい。
魔法に反比例して科学技術が忌避されている世界で、実は地球は科学技術で守られているらしい、今後も楽しみです。
そしてタイトルの「天の十二分の五」というのはいわゆる超空間航法を宇宙の「煉獄」を通じて行うこの世界での深度(速度?)を表すもので、そしてこの宇宙観は巻末解説によると「十七世紀の新プラトン主義に基づくヘルメス学的知」で構成されてるそうです。わかりません!いーんだよ魔法で宇宙なんだよそういうことだよ!!