ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

坂井のどか「もののふうさぎ!」

「女子高生が主役の小説は全部ファンタジーだ!」とかやってきたけど、流石にそれもどうかと思うライト文芸作品。第6回文芸社文庫NEO小説大賞優秀賞の、「居合」をテーマにした青春スポーツ小説…というところで。

これまで武道にはあまり縁が無い人生を送って来ましたが、実は中学校時代は剣道部に所属していました。たぶん「いい感じの棒」を振り回すのが楽しかったんだろうなあ。全然大成しませんでしたが、いまでもいい感じの棒を振り回すのは好きです。ネギとか。それで、大学に入ってから教養課程の時期に体育の授業でちょっとだけ弓道をやりました。弓こそ引いたものの、射場に出ることも無く屋内の至近距離でアーチェリー用の紙の的を使ったんだったかな?ほとんど体験学習に近いものでしたが、これはちょっといい経験になりました。弓道って「的に当てた方が勝つ」競技ではないんですね。あくまで「的を外した方が負ける」競技であって。同じじゃん!と思うかもしれませんし実際いまこうして書いていてもそれのどこが違うんだろうかと思わなくもないけれど、例えばボウリング(温泉を掘らない方)というスポーツは、最初から最高得点が決まっていて、いかにしてそこから外れないかという「引き算」で競うスポーツです。スコアを重ねて得点を競う「足し算」の球技ではありません。「スターボウリング」見ればわかります。もうやってねえよ。弓道もそれと似ていて、あれは正しく弓を引けば正しく的中するもので、もしも「外れた」ならばそれは競技者が正しく弓を引けていない。そしてその「正しく弓を引く」という行為には恐ろしくレベルの高い所作が要求される。弓道ってそういうものですね。

などと偉そうなことを言っても半年に満たない時間を体育館でやっただけなんだけどな!!信じるなよ!!!

前置きはそれぐらいで本作の感想です。「居合」がテーマだと聞いてちょっと不思議だったんですよね。自分はその分野に全然明るくないのですが、なんとなく居合、居合道というのは「独り」で型を演じる演武のようなイメージが強くて、時代劇にはよく居合を使うキャラがいますが(緋村抜刀斎とか)、お互いが居合で戦う場面というのはなかなか想像があー「椿三十郎」のラストがそれかなあ?ともかく居合、居合術同士で試合をするってどういうことなんだろう?西部劇の早撃ちみたいになるのかしらん?とかそんな気持ちで読み出しまして。

まるで知らない世界な話の分、一人称で主人公が「説明」を重ねていく文体は読みやすいものでした。流派の名前などは実在のそれから違えているそうなんですが、例えば金額はともかく高校生でも結構簡単に刀を所持することが出来て、あれは実際そういうものなのかな?いわゆる「業界小説」でもあるのか。刀の取り回しや姿勢、体捌きなども(これが歴史小説異世界チャンバラ小説などの「実戦」であればまた違うんでしょうが)武道がテーマであるので、いま自分がどういう状態にあるのかを本人がどう認識しているのか、という解説・説明的な記述が大事なんだなと、それは気づきを得ました。剣道に精通しているような人が読んだらまた別なのかもしれませんが、おそらく想定読者層はそこではないでしょう。高校生らしい部活動の延長からやがて剣術大会に参加する流れの中で、主人公の「網戸うさぎ」さんがどういう人なのか、何を思い何を悩み、何のために刀を振るうのかを自問自答していく、お話としてはそういうものです。

そしてちょっと誤解してたんですがクライマックスの「女子剣豪大会」、決して居合だけの大会では無かったんですね。いろんな剣道剣術流派の使い手が集って刃を交える。相手はどんな流派でどんな技を使うのか、そういうところの読み探りも(それは道場での「予選」でも)また、読ませどころである。

そうして勝ちを進めていくうちに自然と「型」を修めていく。マンガなどでは居合を扱うキャラを自動的な機械のように描くこともあるけれど(鬼滅のえーと、あれ、あれです)、なぜそういうふうに見えるのか。そこはなんか、得心が行きました。よく否定的な意味合いで「型に収まる」なんて言いますけれど、武道の型というのは「修める」ものなのであって、もうちょっと踏み混むとひとはその所作から余分や雑念を切り捨てて、自分を最適化して「型に成る」のでしょうね。

 

「かたな」って言うぐらいですからなってごめんそれいま考えた(´・ω・`)

 

そしてもっと大事なことは、(ちょっとネタバレになりますが)武道というのは勝ち負けの問題ではない。というのを描いていることで、これはいわゆる競技スポーツとはちょっと異なる要素なんでしょうね。無論競技スポーツにも勝ち負け以外の問題はあるのでしょうが、求道者に大事なのは道を求める行為であって、女子剣豪大会に優勝するとかそういうことではない。優勝しないと学校が廃校になる訳でもないから、不自然に勝つ必然もない(笑)

基本、女性目線の女子小説なんですが、新畑くんが最後にちゃんとフォローされてたのは、男性読者としては良かったですね。

また、「もののふうさぎ!」のタイトルですが、これはやはり「武士」と「兎」という強さと可愛らしさのギャップを表現したものだろうと思います。もののふは強い、うさぎは可愛い。

 

でもね、

 

アーサー王と円卓の騎士たちは、また違った見解を持つだろうなと思うのですよ(´・ω・`)

 

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