ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

麓直浩「敗戦処理首脳列伝」

タイトルの出オチ感がハンパない一冊。

まこと人類の歴史は戦争の歴史であり、栄光の勝者の陰には必ず屈辱の敗者がある。詩人の立場であればただ「国破れて山河あり」とでも慨嘆しておればよいが責任のある地位にいれば責任を負わなければなりません。だいたいそんな感じ。古代ギリシアのペロポンネソス戦争から20世紀末のエリトリア独立戦争まで、時代も場所も幅広く、様々な人が様々に敗戦処理の立場に置かれてさてそれがどう推移したかは時と事情によるだろ!

個々の人物について語る前に周辺事情についてもページが割かれ、歴史の表舞台ではなかなか取り上げられない人物も多い中、読者に対して理解が進むような配慮がされているのは有り難い。個人的にはチリVSペルー・ボリビアによる「太平洋戦争」の推移が知れたのはよかった。19世紀の中南米って政治情勢が無茶苦茶過ぎて戦慄する…

日頃「人物」にはあまり関心を持たないように努めている自分ですが、この本は面白かったですね。「自称大統領」とか就任2日で国が無くなる首相とか、歴史人物裏街道みたいな雰囲気が色濃い中、レーニンやケマル=アタテュルクのように敗戦処理から新規体制を立ち上げ後世に名を残す人物もありで。東久邇宮って1990年まで存命だったのかと驚かされることも多い。全体としては収穫が多かったように思う。

15世紀のフランス、フランドル地方ブルゴーニュ戦争で、敗死したシャルル突進公の娘として突如フランス王との外交交渉の矢面に立たされた公女マリー・ド・ブルゴーニュが、ハプスブルグ家のマクシミリアンと婚姻関係を結んでこれに拮抗し無事所領を守り、夫とも単なる政略結婚ではなく仲睦まじい夫婦生活を送って実にハッピーエンド…と思ったら、特になんの脈絡もなく馬から落ちて死んだ。という事例には、なんというか歴史の無常さをみる思いである。

雑学系のネタ本に十分なりそうな一冊ですが、ある種の創作クラスタには人物造型のためのよい素材集になりそうです。