ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ダグ・スタントン「ホース・ソルジャー」

ホース・ソルジャー―米特殊騎馬隊、アフガンの死闘

ホース・ソルジャー―米特殊騎馬隊、アフガンの死闘

911事件を受けて2001年に起きたアメリカのアフガン侵攻作戦に於いて、いわゆる「北部同盟」と行動を共にしてアフガニスタン山岳地域に展開した米軍特殊部隊の行動を描いたノンフィクション。

普段こういった特殊部隊ものをあんまり読まないのは、そのむかしアップルシードのデータブックだかでモサドについて知りたい人は「どうせ本当のことはわからないのだから落合信彦の本でも読むといい」てなことを書かれていて衝撃を受けたからだったろうか、大体に於いて非正規行動の戦闘記録にどこまで信憑性が担保されるかは、多少なりとも身構えておいた方がいいと思いますが。

頭の隅にそんなことを書き留めておけば、本書の内容はなかなか面白いものでした。事前情報のまったく欠落したアフガニスタン山岳地域の、果たして敵か味方か信頼性を問えるのかまったく未定な軍閥諸勢力(著名なドスタム将軍ともうひとりムハンマド・ヌールなる人物に率いられた二つの勢力が中心となる)の真っ只中に降り立ち信頼関係を構築してさあ戦いだって時に移動手段は馬しかない。

当時米軍が国内でロデオショー用の馬の鞍を急遽手配したなんて話もあったけど、現地では当然地元の住民(とその馬匹)に合わせたサイズの物しか無く、いかに陸軍特殊部隊(主に第五特殊作戦群第三大隊の隊員)とはいえ高山地域の隘路で馬に乗る訓練なんかやってるわけもないのでいろいろ大変ですと、だいたいそんな話。B-52重爆撃機をはじめとする空軍各機によるスマート爆弾などの航空支援を受けつつ、地上では砲迫も満足に持たない騎兵部隊で当時はまだ重火器や機甲兵器を保持していたターリバーン軍に突撃していく戦闘描写は、ある意味ではシュールだ。

クライマックスは大量に降伏したターリバーンの捕虜が収容先のカラァイジャンギー要塞で起こした一斉蜂起(どうも偽装投降だったらしい)とその鎮圧で、この戦闘で戦死したCIAのいわゆるパラミリ職員が21世紀になって初めてのアメリカ人戦死者であったり、蜂起したターリーバーンの中にアメリカ国籍のジョン・ウォーカー・リンドが居て後に裁判になったりでアメリカ国内では社会的な問題にも発展した事件。「タリバンの中にアメリカ人がいた」ってニュースは日本でも流れましたね。当人は特に戦闘行為に関わっては居なかった様だけれど、懲役20年の実刑はどれほどのものなんだろう。

ヘリコプターの高度限界を超えて人員輸送を行う陸軍夜間飛行隊“ナイトストーカーズ”や海もないのに派遣されている英軍のSBS(特殊舟艇部隊)など、「特殊部隊」と総称される様々な部隊の活動の一端が見られる、それなりに面白い本でした。流行ってるけどね、こういう本もね。

そしてやっぱり「アフガニスタン人」のメンタルは欧米や日本のそれとは大幅に異なるものだと再認識させられる。軍閥というよりは「山賊」としたほうがよほど正解に近いようで、しかし差別や偏見の感覚を持つことなく、正しく彼の人々の行動原理や深慮遠謀を理解するのは難しいだろうな……

盲目的に相手を称賛するってことも、ある種の偏見なんだろうなとは思うのだけどさ。