ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

古処誠二「いくさの底」

 

いくさの底

いくさの底

 

 

戦場で起きた「殺人事件」の真相と犯人を明らかにする、という点ではミステリー色の強い一編。もともとミステリー畑の出の人なので、謎の置き方と解き方は本格(っていうのかな)なものです。とはいえ主人公は傍観者に過ぎず、謎を解く仕事と役割は概ね主人公の視界の外で起きるので、ミステリーとして真正面から読むのは弱いかなあ。

 

やっぱり最近のこの人の作品の例に漏れず、響いてくるのは「ビルマの竪琴」に対するアンチテーゼ、ビルマ(現ミャンマー)を、決して「ただの美しい国」に描かないように努める、なんだろうね。やっぱり戦後日本人のビルマ感には竹山道雄中井貴一が色濃く影を落としてそうで、軟禁時代のアウンサン・スーチーに対する無条件な信頼と、その現状に対する無責任な幻滅にも、無自覚にフィクションが影響してるのじゃあるまいかと思うのよね。

 

ロヒンギャ」の問題が大きく問われる今だからこそ書かれたものかもしれません。ワイドショーだけ見ると誤解するかもしれないけれど、ロヒンギャって民族問題ではないからね。