ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ロバート・ウェストール「禁じられた約束」

第二次世界大戦を背景にした児童文学やゴースト・ストーリーをものすロバート・ウェストールによる恋愛風味の幽霊物語。思春期男女の美しくも微笑ましい初恋物語が、病弱のヒロイン夭折からイギリス風牡丹灯籠に転じるだいたいそんな話なんだけど、

背景ではずっと第二次世界大戦をやっているので、

いろんなところに死が溢れています。そういう世界のただなかで「かけがえのない喪失」を描いたものとはいえましょう。労働者階級の息子であるぼくと資本家の娘ヴァレリーとの淡い恋が、両家の関係ではむしろ推奨されているのに「周囲の男子の目」を気にして密会になるというのは、これは昭和の頃の日本(の児童社会)にもよくあった話だ。そういうところで性癖拗らせる人間も多いのだろうなあ。

悲劇的に、しかしそれなりに美しく亡くなったヴァレリーが「墓地に爆弾を落とされ遺体もなにも失われてから」幽霊になってぼくの前に現れる流れはよかった。そして美しくも儚げに描写されていたヴァレリーが決してただそれだけの女の子ではない、と(娘を無くした父親に)指弾されるのも何かよかった。

クライマックスでJu88爆撃機が降ってくるのはもっとよかった。

結局ヴァレリーの魂を救ったのはぼくでも父親のモンクトン氏でもなく名無しのドイツ人操縦士(の魂)である。生者には争いを、死者には安寧を。