ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ジョシュア・レヴィーン「ダンケルク」

ダンケルク (ハーパーBOOKS)

ダンケルク (ハーパーBOOKS)

  • 作者: ジョシュアレヴィーン,武藤陽生
  • 出版社/メーカー: ハーパーコリンズ・ ジャパン
  • 発売日: 2017/09/08
  • メディア: 文庫
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クリストファー・ノーラン監督の映画「ダンケルク*1がやってた頃に書店で見かけて、さすがにあれのノベライズはつまらないだろうなあと手を出さずにいたんだけれど、図書館で見かけたらこれノベライズじゃない!軍事書だったんだ…!!と、自分の不明さを恥じた一冊。ダンケルクの戦いに至る当時のヨーロッパの社会的背景や開戦からの推移、様々な人々の証言など、映画の製作にあたってリサーチされた物事を、本編の時代考証も担当した作家によって一冊の本にまとめ上げたもので、いわば「副読本」ですね。公開当時に知ってれば、本編内容をもっと広く理解できたかもしれないし、実際あの映画は背景や説明を大胆に省略するつくりだったので、こういう書籍の需要は大きかったんじゃあるまいか。その割に知られて無かったように思うのよね、版元も(失礼ながら)知らないところだしね…。

映画が描いた出来事の実際のモデルや、とても映画には描けなかったようなことなど、様々なエピソードが様々な視点から語られます。特に空軍のパートで、(映画にはまったく登場しなかった)デファイアント戦闘機パイロットの輝かしい勝利の記録を読めるのは実に、実に貴重ですぞ紳士。

第二六四飛行隊に属するボールトン・ポール・デファイアントパイロット、エリック・パーウェルにとって、五月二九日は戦争が本格的に始まった日だった。「急降下爆撃機シュトゥーカが四機、並んで飛んでいた。横陣を組むような感じで。こっちはデファイアントが三機、連中の機と機のあいだに潜り込んだ。やつらは爆発したよ。シュトゥーカの燃料タンクはパイロットと航空士のあいだにあったからね、楽勝だった」

>>楽勝だった
>>楽勝だった
>>楽勝だった

……!!!!!

他にも印象に残る記述はいくつもある、やっぱり映画が公開してた頃に読むべきだったな…

池澤春菜「おかわり最愛台湾ごはん」

 

おかわり最愛台湾ごはん 春菜的台湾好吃案内

おかわり最愛台湾ごはん 春菜的台湾好吃案内

 

 池澤春菜はガチ。

というわけで池澤春菜嬢にいる台湾ガイド本第二弾です(前巻はこちら)。前回同様今回も自らの脚と感と飛び込みで探索された台湾各所の美味しいところや要チェックなスポットがびっしり。実際に台湾旅行に行かれる方には間違いなくお勧めの一冊でしょう。

前回同様今回も、お店を紹介した各ページはアプリと連携してグーグルマップを立ち上げる機能が付いているのだけれど、今回は本文中にも地図ページが含まれていて、それが非常に良かったです。例え実際に旅に出られないとしても、地図を見て思いをそこに飛ばせれば、読書だってひとつの旅だ。それぞれのお店が台湾のどのあたりの街にあるのか、その食べ物は街のどこの通りにあるのか、その写真はどこで撮られたものなのか、そういうことを想像する頼りになるのはやはり地図で、思えば本の冒頭に掲げられた地図を見て、ページをめくればそれぞれの場所についての記述があるのだとわくわくしたのは「エルマーと16ぴきのりゅう」が最初であった…。なんでシリーズ3巻から読み始めたんだ俺。

閑話休題

今回はチャイナエアラインによる日本からの旅客便の解説や、ビーチリゾートとして著名(なのだそう)な澎湖諸島のページもあったりで、より一層旅行者向きというかバカンス感あふれる内容となっています。この夏台湾行かれる方はトランクに本一冊分のスペースを開けて、どうぞ。

食べ物屋以外にも台湾の様々な文物が紹介されているのも前回と同様なのですが、今回訪れているなかでは台湾初のウイスキー醸造所(!)、宜蘭のKAVALAN蒸留所のページがたいへん興味深いものであります。熱帯でウイスキーを作ると短期で熟成できるのだけれどいわゆる「天使の取り分」が10%から20%って天使呑み過ぎじゃねえか(笑)

カバラウイスキー自体は日本でも入手できそうなんですが、お酒全くダメな春菜嬢が自身でブレンディングした一本が飲みたいですねえと夢ぐらい!書いても!良いだろ!!

あとこのページの衣装がお素敵です。

今回はレシピのページが無いんですね。なので前回に記載があった魯肉飯を今度こそ作ろうと固く心に誓う。

宮内悠介「超動く家にて」

 

超動く家にて 宮内悠介短編集 (創元日本SF叢書)

超動く家にて 宮内悠介短編集 (創元日本SF叢書)

 

 

短編集というのはその作家個人のポートフォリオのような意味合いもあって、本書はまさにそんな感じです。宮内悠介という人が何を書くのか、どんなものを産み出せるのか、そういう技術・力量の見本のような内容。そう感じたのは短い中に技巧を凝らした短編が多いからで、表題作「超動く家にて」はまさにその代表か。

実は「盤上の夜」よりも先にこのバカミステリSF(褒めてますよ)が宮内悠介初体験だったので、いまだに宮内悠介と言ったらどこか馬鹿っぽい空気で(いやだから褒めてるんですってば)、そこに技巧を凝らしてくる作家だという刷り込みがあります。宇宙ステーションの中で野球盤する話とかね。創元の年刊SF傑作選で既読の物もいくつかあったのだけれど、アンソロジーではなく著者単独の作品集の中に置けば、見え方もまた違ってくるものです。そして初出誌を確認すると、いかに媒体に(あるいはオーダーに)合わせてテーマを据え、その上でウイットなりユーモアなりを散らして、そして技巧でまとめるという技の冴えにあらためて唸らせられます。上手いよなあほんと。

収録作品も決して馬鹿っぽい(褒めてry だけでなく、しっとりといい話や爽快感あふれるエンドなお話や、様々なタイプの面白いSFがたくさん。まあ冒頭の「トランジスタ技術の圧縮」が「深刻にくだらない話を書く必要に迫られて」うまれたド直球に馬鹿っぽい(褒ry なのでその空気が全体を支配していると言えなくもないのだけれど。

 

だけれども、本当に面白いのは巻末のあとがきです(笑)語り口って大事だなあ…

コードウェイナー・スミス「三惑星の探求」

 

 人類補完機構全短編第3巻。3冊を通じてしみじみ思うに、どうも自分はコードウェイナー・スミスとは合わないらしい。全編を通じて確かに気になるキャラクターや詩情に満ちた用語・タイトルは見られたけれど、作品として、小説としては正直そんなに面白くは、無かった。残念なことではある。

 

本書の中核をなすのはキャッシャー・オニール四部作なのだけれど、そのなかでも番外編とでもいうべき「三人、約束の星へ」が今巻収録作品ではいちばん楽しかった。が、その楽しさというのも「上遠野浩平の虚空牙シリーズみたい」だから、というなんとも本末転倒した感想で、やっぱもっと早く読んどくべきだったのかも知れないね…

 

本書後半の作品群については旧版の「第81Q戦争」で読んでるはずなんだけどまるで覚えてなかった。そういうものかなあうーむ。

 

ところで巻末解説で、ある作品について「政府組織の右往左往はとてもリアルで」なんて書いてあるんだけどいやあ、それは、どうなの?

森見登美彦「夜行」

 

夜行

夜行

 

 まあ怪談…だよな。「きつねのはなし」や「宵山万華鏡」のような、闇森見とでもいうべき路線でこういうのはアニメにならない(笑)数年ぶりに再会したグループが10年前に疾走した仲間のことを思い出しながら、一人一人が自分の体験した奇妙な出来事を語り合う「百物語」風な連作短編集。個々の章を繋いで行くのが連作銅版画(と、その中に描かれた女)というのはちょっと乱歩の「押絵と旅する男」のようであり、M.R.ジェイムズ風でもある。

それぞれの章はまた「旅」をテーマにしていて、異郷を訪れて異界に触れるというのも萩原朔太郎の「猫町」をはじめ怪談(あるいは幻想文学)では、ある意味伝統的な手法です。

個別の章も全体に於いても、綺麗にまとめずにどこか読み手を不安に誘うような締め方はとてもとても良いものです。でも、こういうのはアニメにならないだろうなあ、やっぱりね。

 

夜行列車で青森に向かう「津軽」が、いちばん怖いなあ。恩田陸の作品みたいな雰囲気もあるかな

「ニンジャバットマン」見て来ました

公式。 新宿じゃピカデリーのシアター6で1日4回上映という規模のスタートだったんで、こりゃ早めに行かないとタイミング逃すなーと思って今日のうちに。

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信仰について。

 「カードキャプターさくらクリアカード編」、前作より10年を経て作られた正当な続編。前作と同じキャスト、前作と同じスタッフ。ただ一人、佐々木利佳ちゃんだけは川上とも子さんから藤田咲さんに代わって、利佳ちゃんだけはみんなとは違う中学に進学している。それがどうも「魔法騎士レイアース」の鳳凰寺 風と同じ学校だそうで、きっと利佳ちゃんは風ちゃんが良くしてくれているのだろう。川上とも子さんが安らかであられるのと同じように。

 

これはそういう世界のお話です。昔と変わらないキャラクター達を懐かしむとともに、新たにこの世界を訪れたキャラクター達を歓迎してやまない。日常に謎は起こり、不可思議な現象は不安を招くのだけれども、きっと最後は皆幸せになるのでしょうね。

 

原作は未読なのでこの先のことはよく解っていないのだけれど、木之本さくらが「母親に似て来た」ということはつまり危惧されることがあるわけで、今後の展開はそこに収束していくのかな?いずれにせよ前シリーズも長いスパンで制作されたので、今作もそういう展開を期待します。伏線引くだけ引いて最終回だったので、ちょっとどころかかなり驚いたのですが、それでも自らの信仰が揺らぐことはないのです。

 

大正義知世ちゃん万歳。クリアカード編ではさくらと秋穂のからみが多いので一歩引きがちなのだけれど、そのポジションもまた善きかな。しかし小狼も山崎くんも、千春ちゃん奈緒子ちゃんもみんなハイスペック中学生だよなあ…