ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ウィリアム・ホープ・ホジスン「エリ・エリ・サバタクニ」

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文学フリマで入手した私家版。「漂着文庫」レーベル第一回配本の田中重行氏によるホジスンの未訳作品短編集*1書誌情報などはこちらに。同梱されていたリーフレット(漂着文庫月報)によれば

正直言って「夜の声」レベルの海洋怪奇小説の傑作がまだ未訳で残っているわけではありません。

とあるけれど、デビュー作「死の女神」はじめ興味深い内容でした。海洋ものが多くを占めているけれど、なかには著者唯一の西部劇(!)「バークレイ判事の妻」や、未来のディストピア社会を描いた「1965年––現代の戦争」などのちょっと変わった作風の物もある。個人的には「呪われた<パンペロ号>」が非常に良かった。これはアサイラムに持って行けば立派なサメ映画になると思われる(笑)そんなオチで良いのか!などとツッコミ入れたくなるのも、考えてみればホジスンの作品には多いよな。

しかし一番インパクトがあったのは絶筆となる「戦場からの手紙」で、これは第一次世界大戦下のイープルより送られたものが抄録として当時のロンドンタイムズの死亡記事に載っていたもの。

 

おお、神よ!<ロスト・ワールド>とはこのことです––<世界の終わり>とはこのことです––。<ナイトランド>とはこのことなのです。––そのすべてがここに、あなたが座っているところから二百マイルほどしか離れていないが、しかし永遠に遠いこの場所に、存在しているのです

 

もし幻視者が、自分の見ている幻が実は幻でもなんでもないと気が付いた時に、そのとき抱いた感情、思考を作品として記述することが出来たら、いったいどんなものを書いたんだろうなあ。

 

もしペンがわたしを見捨てずに、かつてのような”才能”がまだ自分に残されているのなら、私はどのような本を書くべきなのでしょうか。

 

ペンは作家を見捨てなかったが、世界はもっと残酷だった。

*1:その他付録として明治時代に翻訳された作品やホジスン船員時代の評伝を収録。

米澤穂信「Iの悲劇」

 

Iの悲劇 (文春e-book)

Iの悲劇 (文春e-book)

 

 久しぶりに黒米澤。

 

Iターンをテーマに廃村をよみがえらせる計画が、幾度となく発生する隣人間のトラブルによって瓦解していく様を描く連作短編集。連載が半分、新規書き下ろしが半分といった内容で、連載分では昼行燈のような「甦り課」の課長が安楽椅子探偵のように謎を解くような構成をとる一方で、書き下ろし分では謎解きというのも弱いような(10m手前でばっちり真実に気づくような)ものもある。連載分でもあからさまに手掛かりが提示されているようなものもあり、そのあたりの薄っぺらさも米澤穂信らしい仕掛けで、エピローグまで読み進めると実は何が起きていたのか、そこで真実が明かされる構造。

 

しかし後味が悪いお話で、特に爽快感とかはない。困ったもんである(´・ω・`)

 

あー、最後の一行でこれがとある古典名作へのオマージュなのかと思わされる驚きはあるが。

 

あるがしかし。

プラッツ「ガールズ&パンツァー 劇場版 おてごろ模型戦車道 1/56 IS-2 プラウダ高校」を作ってみる(塗装編)

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で、続きです。前回はこっち。

およそ模型で塗装といえば世間様ではエアブラシか筆塗りか、みたいな話になるのですが、世間から遠く離れたところで缶スプレーを振ってるこの身の好み、模型雑誌なんかでももう少し缶スプレー塗装法の解説とかやってくれないものかしら。

 

モデルアートで最近やってたそうですが

 

それは読み忘れたの(´・ω・`)

 

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川村拓「事情を知らない転校生がグイグイくる。」⑦

 

 というわけで「事情を知ってる同級生がグイグイくる。」も7巻目です。今回の山場はバレンタインとか6年生を送る回とかで、そこで描かれるのは笠原さんの在り様だったりする。「倫理ケア」という言葉は最近知ったのだけれど、高田君の言動は周囲の人間を倫理的にケアしているのかも知れません。いわゆる癒し系よりもうちょっと踏み込んだセラピーか。

そういう話が受ける時代なんだろうなとは思います。それが良いか悪いかはともかくとして。

 

次巻は6年生に進級して、どうも新しいキャラとか出るらしい。事情を知らない者はさて誰なのかしら。

「魔女見習いをさがして」見てきました

公式。 おジャ魔女どれみ20周年記念作品というわけで、20年というのもあっという間ですね。当時はまだ20代で、アーマーモデリングも隔月刊でした(関係ない)。

 

特にネタバレがどうこうというタイプの映画ではないと思うのですが、念のため続きは隠しておきます。

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プラッツ「ガールズ&パンツァー 劇場版 おてごろ模型戦車道 1/56 IS-2 プラウダ高校」を作ってみる(組立編)

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ちょっと思うところあってキットレビュー的な記事を書いてみようと思います。最近あんまり読書もしてないしねー。

 

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シオドラ・ゴス「メアリ・ジキルとマッド・サイエンティストの娘たち」

まーイマドキなお話…ですね。19世紀のイギリスを舞台にジキル博士の娘メアリ・ジキルと、彼女の周りに集う「マッド・サイエンティストの娘たち」という設定はたしかに秀でたものがあるけれど、彼女たちが何をするかと言えばシャーロック・ホームズと協力してホワイトチャペルの連続殺人の謎を追う、というのはちょっとベタ過ぎないかなあと(笑)3部作の第1巻でまだキャラクター紹介の面が強いにしても、スーパーヴィクトリア大戦みたいなお話も、かの有名なキム・ニューマンの「ドラキュラ紀元」はじめ切り裂きジャックを扱った作品って多いからなあ…

キャラクターはね、実際魅力的です。ジキルではなく「ハイド氏の娘」として現れる腹違いの妹ダイアナ(ロウワ―少女)、原典通り「ラパチーニの娘」であるベアトリーチェ(ポイズン)、獣人の島の生き残りである「Dr.モローの娘」キャサリン人類ネコ科)、怪物の花嫁として死から蘇った「フランケンシュタインの娘」であるジュスティーヌ(巨女)など個性的な面々…のなかで、メインヒロインのメアリだけが普通に普通の人過ぎてそこは弱いんだけれど、厨房メイドのアリスが可愛いので全部許す。可愛いは正義。

「アテナ・クラブ」を結成することになるそれぞれのヒロインたちは、それぞれ古典小説を出自に持つのだけれど、それぞれがそれぞれに男性に傷つけられたり裏切られたり捨て去られたりした過去を持つ。ジェンダーというかフェミニズム小説みたいな感はあり、だからこそだと思うのだけれど、古典小説を出自にする「彼」を悪漢にしちゃったのはまあどうなんだろう?巻末でエクスキューズは入れているけれど。 

本文は事件の回想をキャサリンによる執筆で著わしたもの、という体を取っていますが、ところどころでというかしょっちゅう、その原稿を見ている他のメンバーからのツッコミが入ってきます。慣れると面白いけど当初鬱陶しかったのは確かだw

まだまだ謎めく「錬金術師協会」の存在と言い、周辺人物がチラホラ顔を出す割りに当人が姿を見せない古典小説のキャラ(Dで始まる人、人じゃないけど)など気になる要素はいくつもあり、全3巻刊行されると良いのですがさてどうだろう?