ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

高木俊朗「全滅」

はまぞうでは出てこなかったので直接リンクを貼る。

http://www.amazon.co.jp/gp/product/4167151073/503-8666459-8638333?v=glance&n=465392&s=gateway

自分が読んだのは文庫ではなく単行本のもの。古書業界ではどっちが入手し易いんだろう。

日本陸軍の戦車第十四連隊がインパール作戦に於いて全滅した、というのは常識の範疇にはいる出来事だと思うが*1、具体的には知らなかったので不勉強を恥じ入るばかりである。
いわゆる「インパール4部作」のひとつだそうで、最前線に配属されたある部隊が苦闘し、全滅していく様を描いてこの作戦全体を見通させるような作品。あくまで「小説」という体裁をとってはいるが*2良いところは何一つ無く、陰鬱で悲惨なことしか続かない。敵情を顧みず、自らを過信し、自己を保身し、末端を切り捨て、雨と泥と密林のなかに部隊は、人は消えていく。ベトナム戦争の映画で一番好きなのは「ハンバーガー・ヒル」だが、あれを見た時の感覚に近いか?いや、もっとひどいな。
戦艦大和」や「特攻隊」を映画にして、世に戦争の惨禍を伝えるのも良い。「東京大空襲」や「原子爆弾」を映画にして、世に戦争の悲劇を伝えるのも良い。でもこの「全滅」のようなどうひっくり返しても美談にもならず、被害者としての側でもなく、当事者としてどうにもならない不条理・非合理を描いて世に戦争を伝えるのも良いのではないか…と、思った。

それでも自分は、この小説の登場人物を愛する。ヒロイズムなど欠片もなく、醜い自意識に溢れた人物を愛する。巷間誰にも知られないような地の果てで、非業の死を遂げた人物を愛する。

靖国神社戦没者合祀には戦犯であるか否かを問わず、反対する。

敵戦車が出てくると逃げの一手しかない九七式中戦車は、溺愛する。*3

*1:どこの常識だ

*2:パウル・カレルは「ノンフィクション」として捉えられるのにこの作品を「小説」として捉えるのは自分の限界だと思う。

*3:最期は湿地帯に半没してトーチカ。後に廃棄処分